後続の、「マクスウェルの方程式1-4」とあるページにて、4つあるマクスウェルの方程式について1つずつ説明していきます。本ページでは概要について述べます。
1 マクスウェルの方程式は簡単?
式は4つありますがそれぞれの項の数は高々3個で、しかも電気と磁気に関する式が対になっています(完全に同じではありませんが)。一見簡単です。
しかし見た目ほどには簡単ではないかもしれません。何が難しいのでしょう。
(1)ベクトル解析の基本的な知識が必要
マクスウェルの方程式ではベクトル場(スカラー場)の発散・回転、積分が使われます。まだ学んだことがないのであればこれらも学ぶ必要があります。よければ本サイトの下記ページをご覧ください。
ベクトル場の発散、ベクトル場の回転、スカラー場・ベクトル場の積分
(2)微分形と積分形がある
4つの式それぞれに微分形と積分形の2種類があります。
微分形とは物理量の偏微分を別の物理量で表したものです。
積分形とは領域の境界と内部の関係を積分で表したものです。
微分形と積分形は同じ法則を違う形式で示しているだけです。どちらかといえば積分形のほうがなじみがあり、実際に参照されることが多いはずです。しかし微分形のほうが応用しやすい場合があり、不要というわけではありません。
積分形からとっさに微分形を導くことも容易ではないので両方を理解し覚えておく必要があるでしょう。そのために4つの式は実質、倍になったようなものです。
本サイトではまず微分形を説明し、次に微分形から積分形を導出・説明します。
(3)関連する法則や知識が多い
これが最も伝えたい項目です。
マクスウェルの方程式はガウスの法則、ファラデーの法則、アンペールの法則など各式に1つの基本となる法則を記述したものです。マクスウェルの偉大な業績は、これらを驚くほど簡潔に表したことにあると言われています。しかし、裏を返せば見た目とは裏腹に、複雑な事象が関わっているということでもあります。クーロンの法則、ローレンツ力、ビオ・サバールの法則など、間接的に関わる法則なども多く存在します。
理解しないといけない物理量の種類も少なくありません。E-B形式であれば現れる物理量はわずか4種類です。しかしこれらだけで理解できるわけではありません。中には似て非なるものもあり初見では混乱するかもしれません。さらに、それらが複雑に関わり合っているために局所的には理解できないということもあります。
(4)電気と磁気では対称でないところがある
電気の場合、正・負どちらの極性の粒子も単独で存在することができます。しかし磁気の場合、正と負(N極とS極)が対になっていなければなりません。単極の粒子は存在しません。冒頭で電気と磁気は対称であると述べましたが、この違いにより対称ではありません。両者の違いを区別して理解しないといけません。
(5)E-B対応とE-H対応がある
マクスウェルの方程式はE-B対応とE-H対応によって分かれます。E-B対応では電場と磁束密度(\(\boldsymbol {E}\)と\(\boldsymbol {B}\))を対応させますが、E-H対応は電場と磁場(\(\boldsymbol {E}\)と\(\boldsymbol {H}\))を対応させます。
まずはどちらか一方だけを理解すればよいと思います。
ただし教科書などによってE-B対応、E-H対応に分かれるので都度置き換えて理解する必要があります。
本サイトではE-B対応で表します。
(6)単位系が複数存在する
我々は全世界でメートル法(もう少し広く言うならMKS単位系)が使われているものと思いがちですが、意外にそうでもありません。特に技術・工学の分野は単位があまり統一されていません。たとえばテレビのサイズはインチです。タイヤのサイズもそうですね。航空工学ではノットがよく使われます。
一方、科学では国際単位系(SI)が全世界で使われています。SIはMKSを包含する単位系です。アメリカやイギリスもメートルやキログラムを使います。ただし全て統一されているわけではありません。特に電磁気学では単位系の統一は進んでおらず、現在でも複数の単位系が存在します。
単位系が異なっても本質は変わらないのですが、式の記述は異なります。複数の単位系で理解しようとすると苦労が増えることでしょう。必要がなければ1種類に絞ったほうがよいと思います。
本サイトは現在最も主流であるMKSA単位系(MKSにアンペアを加えた単位系)で記述します。
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以上、マクスウェルの方程式が大変難しいかのような書き方をしましたが、それが本意ではありません。式は次章の通り簡単そうです。しかし、だからこそ見た目ほどには簡単ではないということを伝えたく、落とし穴となりそうなところを挙げてみました。
もし予想外に理解が進まなくても落ち込むことはありません。もともと手ごわい相手だったのだと思ってください。
2 マクスウェルの方程式
以下がマクスウェルの方程式です。
2.1 微分形
ガウスの法則
$$\nabla \cdot \boldsymbol{E} = \frac {\rho} {\epsilon_0} $$
磁場に関するガウスの法則
$$ \nabla \cdot \boldsymbol{B} = 0 $$
マクスウェル – ファラデーの式
$$ \nabla \times \boldsymbol{E} = – \frac {\partial \boldsymbol {B}} {\partial t} $$
アンペール – マクスウェルの式
$$ \nabla \times \boldsymbol{B} = \mu_0 \left( \boldsymbol {J} + \epsilon_0 \frac {\partial \boldsymbol {E} } { \partial t} \right) $$
2.2 積分形
ガウスの法則
$$ \oint_S \boldsymbol{E} \cdot d\boldsymbol {S} = \frac{1}{\epsilon_0} \int_V \rho dV$$
磁場に関するガウスの法則
$$ \oint_S \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol {S} = 0$$
マクスウェル – ファラデーの式
$$ \oint_l \boldsymbol{E} \cdot d\boldsymbol {l} = -\frac {d}{dt} \int_S \boldsymbol{B}\cdot d\boldsymbol{S}$$
アンペール – マクスウェルの式
$$ \oint_l \boldsymbol{B} \cdot d\boldsymbol {l} = \mu_0 \left( \int_S \boldsymbol{J} \cdot d\boldsymbol{S} + \epsilon_0 \frac{d}{dt} \int_S \boldsymbol{E} \cdot d\boldsymbol{S} \right)$$
※ ここでは誘電率と透磁率は真空における値にしています。
3 補足
次ページ以降の説明で以下が関係してくるので、あらかじめ確認ください。
3.1 重ね合わせの原理
重ね合わせの原理は電磁気学以外の分野でも広く使われます。次ページ以降でもしばしば使います。
点Aにて周囲に何等かの影響を与える粒子があり、その影響で点\(C\)にて\(f(a)\)という量が観測されたとします。
次に点\(B\)によって点\(C\)では\(f(b)\)という量が観測されたとします。
点\(A\)と点\(B\)が同時に存在した場合、点\(C\)では\(f(a)+f(b)\)という量が観測されます。
つまり、複数の場所に発生源(この場合\(A\)と\(B\))が存在した場合、観測点では個々の発生源に対する量の和が観測されます。
当たり前のようですが、複雑な事象を単純化するために有用な場合があります。
常にこの重ね合わせの原理が成立するとは限らないのでご注意ください。