ベクトル場の回転

投稿者: | 2021年9月16日

前ページではベクトル場の変化を表す演算として発散について説明しましたが、もう一つ、回転(ローテーション/カール)があります。

さらに難しくなりますが、発散との違いに注意してイメージを把握してください。

1 概要

1.1 回転のイメージ

ここでいう回転とは単一のベクトルが向きを変えることではなく、ベクトル場の回転の成分を表す演算です。

このようにベクトル場が円を描いていた場合(円を斜め上から見ています)、

回転の大きさは0以外になります。回転はスカラーではなくベクトルで表します。回転のベクトルの向きは円を描くベクトル場が含まれる平面に対し垂直です。ベクトル場が時計周りになるように見た場合、回転のベクトルは手前から奥に向かいます。「右ねじの法則」と同じです。

真円を描かなくても回転の大きさは0以外になる場合があります。

以下はいずれも回転の大きさが0を超え向きが奥から手前です。

以下の場合は回転の大きさは0です。

点を通る直線ついて線対称なベクトルは回転にはなりません。

では次はどうでしょう。

線対称な部分を除くと以下になります。つまり回転があります。

点を挟んだ二つのベクトルが同じ向きであってもその大きさが異なる場合は回転があります。わかりづらいかもしれませんが、平行かつ大きさが異なる場合はこの後で頻出するのでよく理解してください。

水面に物体(球や円以外)が浮かんでいるところを想像してください。ベクトル場が水の流れとすると、物体の向きが変わる流れの場合、回転があります。

1.2 点からどれだけ離れたベクトルが対象?

回転は連続したベクトル場に対し定義されます。本ページの図は、あたかも離散的な状態で存在するベクトルのような描かれ方をしていますがそうではありません。あくまでも説明のためと理解ください。

描かれているベクトルと回転が定義される点の距離も無限小と考えてください。点から有限の(無限小でない)位置のベクトルがどのような状態であっても回転には影響がありません。

ベクトル場の空間微分なので当たり前のことかもしれませんが、図を見ると錯覚しやすいのではないかと思いますのでご注意ください。

2 定義

以下が回転の定義です。

\nabla \times \boldsymbol {f} = \left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \right) \boldsymbol {i} + \left( \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {x}} \right) \boldsymbol {j} + \left( \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {k}

\boldsymbol {f}はベクトル場、f_xf_yf_zはそれぞれ\boldsymbol {f}xyz成分(スカラー)です。

\boldsymbol {i}\boldsymbol {j}\boldsymbol {k}はそれぞれ xyz 方向の単位ベクトルです。

\nabla \times はこの後に続くベクトル場の回転を意味します。

\nabla \times ではなく\boldsymbol{rot}\boldsymbol{curl} を使う場合もあります。

または括弧を使って以下のように表されます。

\left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} , \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {x}} , \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right)

3 回転の意味

ベクトル場の発散の3章で発散の定義の導出をしましたが、回転の導出も共通するところがあります。本ページはやや省略して説明しますが、もし説明が不足していた場合は発散のページを参照ください。

3.1 概要

図のように微小な立方体があるとします。図には描いていませんが、この立方体の内外にベクトル場が存在します。

xyzの直交する3方向の軸があり、\boldsymbol{i}\boldsymbol{j}\boldsymbol{k}をそれぞれの単位ベクトルとします。

立方体の表面に沿って\boldsymbol{f}の成分を求めます。ただし絶対的な値ではなく、向かい合う面の成分との相対値(以降、「非線対称成分」とよぶことにします)として求めます。そしてこの結果を回転の定義と照らし合わせ関係を求めます。

3.2 2点の非線対称成分

相対する2面の各1点に存在するz方向の成分を取り出し、非線対称成分を求めます。

非対称成分とは両者の差です。どうやれば求められるでしょう。

図は立方体を右から見たところです。

線を追加しました。

青い2本の線が両者の差です。

赤い線の傾きは \displaystyle \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} です。図の左端から右端までの距離は\Delta yです。

したがって 両者の差は

\frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \Delta y

です。

3.3 非線対称成分の回転の方向

定義の式に従うと立方体の中で回転がどの方向を向くでしょう。ややこしいですが、下の定義の式と前節2番目の図を見ながら下記(1)-(6)を確認ください。

\nabla \times \boldsymbol {f} = \left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \right) \boldsymbol {i} + \left( \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {x}} \right) \boldsymbol {j} + \left( \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {k}

(1)前節図において、横方向はy軸で右が正の方向です。図のように右の成分のほうが大きければ \displaystyle \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} は正です。

(2) \displaystyle \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \boldsymbol{i}は定義の式の右辺第1項です。この項の符号は正です。

(3)上記(1)、(2)より、前節の図の場合(右の成分のほうが左より大きい場合)は回転が正でなければなりません。

(4)前項より、回転が正である向きは図の反時計回りです(右のほうが大きいから)。

(5)以上より、回転は前節の図において画面奥側から手前側の向きになります。

(6)視点を戻すと、下図赤が回転の方向です。

ベクトルで表すと、x方向を向いているので前節の非線対称成分に単位ベクトル\boldsymbol{i}を追加し、

\frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \Delta y \boldsymbol{i}

となります。

この式そのものが回転ではありませんが、3.7節の変換により回転になります。

3.4 2面の非線対称成分

3.2節では2点の非線対称成分を求めましたが、次に2面の非線対称成分を求めます。

立方体表面のベクトル場は一様とは限りません。本来は\displaystyle \frac{\partial f_z}{\partial y} \Delta yを面全体で積分すべきところですが、微小な領域であるため一様であるとして近似で表します。

一様であれば面積を掛けるだけです。面積は\Delta z \Delta xです。したがって2面の非線対称成分は、

\frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \Delta y \Delta z \Delta x \boldsymbol{i}

です。

下図のように回転は定義通りであれば下図のように面全体に広がるはずですが、微小領域であることより、前節のように1点に集中するものとします。

3.5 面全体の回転

前節では2面の非線対称成分より回転を求めました。次に立方体の表面全体について求めます。

6面あるので前節の場合を含め同じような組み合わせが3通りありますが、各組について2方向の回転があります。したがって全てで6通りです。この6通りを確認する場合は下の「+」を押して展開してください。

6通りの組み合わせ

3.6 非線対称成分の総和

前節の組み合わせを全て足し合わせると、

\left\{ \left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \right) \boldsymbol {i} + \left( \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {j} + \left( \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {k} \right\} \Delta x \Delta y \Delta z

となります。

3.7 回転の導出

前節の式と回転の定義(下記)を比較してみましょう。

\left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \right) \boldsymbol {i} + \left( \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {j} + \left( \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {k}

\Delta x \Delta y \Delta zの有無が違うだけですね。したがって前節の式を\Delta x \Delta y \Delta zで割れば定義と等しくなります。

つまり、回転は単位体積当たりの非線対称成分を示しています。

4 例1:2本のベクトルにより生じる回転

簡単な例としてyz平面上の2本のベクトルによりその間の点にどのようなベクトルができるか、みてみましょう。回転はベクトル場に対し定義されますが、簡略化し2本のベクトルのみに注目します。両者の距離は無限小とします。

まず、z方向に2本のベクトルがある場合です。

z方向の成分をyに関し偏微分をする( \displaystyle \frac{\partial f_z} {\partial y} )と正の値になります。y方向の成分は0なので \displaystyle \frac{\partial f_y} {\partial z} は0です。

この2本のベクトルはどちらも上を向いていますが、左のほうが大きいので両者によって反時計回りの回転があります。これは画面奥から手前の向き(下図の赤のベクトル)です。

回転の定義の式では右辺第1項( \displaystyle \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} \boldsymbol {i} )が該当します。符号は正です。図の赤のベクトルもx軸の正の方向を向いており一致します。

\displaystyle -\frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \boldsymbol {i} についても同様です。

次にy方向に2本のベクトルがある場合を考えてみます。両者の距離は無限小です。

y方向の成分をzに関し偏微分をする( \displaystyle \frac{\partial f_y} {\partial z} )と正の値になります。z方向の成分は0なので \displaystyle \frac{\partial f_z} {\partial y} は0です。

\displaystyle \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} は正の値なので \displaystyle -\frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \boldsymbol {i} は画面手前から奥の方を向きます。

2本のベクトルはどちらも右を向き、上のベクトルが下のベクトルより大きいので回転は時計回りです。時計回りの回転の場合、ベクトルは手前から奥に向きます。

やはり定義から求めた回転の向きと2本のベクトルの差から求めた回転の向きは一致します。

この2本のベクトルはどちらも右を向いていますが、左のほうが大きいので両者によって時計回りの回転があります。これは画面手前から奥の向き(下図の赤のベクトル)です。

回転の定義の式では右辺第2項( \displaystyle -\frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \boldsymbol {i} )が該当します。符号は負です。図の赤のベクトルもx軸の負の方向を向いており一致します。

5 例2:2次元のベクトル場と回転

グラフにて2次元のベクトル場の回転がどうなるかを見てみましょう。

前章まで3次元のベクトル場をみてきましたが、2次元も定義は同様です。ここではxy平面上のベクトル場を考えますが、zの成分が全て0で関連する項が消去されるものと思ってください。

図のxyは水平方向です。ベクトル場は2次元なので縦方向は意味はありません。

ベクトル場は黒の矢印で示しています。

回転は赤や青などで表示しています。縦方向が回転の値です。赤が正、青が負です。

5.1 例1

同心円状のベクトル場です。

ややいびつにみえますが中心からの距離が同じベクトルは真円の接線の向きだと思ってください。

以下の式で表されます。

\boldsymbol{f}(x,y) = -ay \boldsymbol{i} + ax \boldsymbol{j}

\nabla \times \boldsymbol {f}(x,y) = 2a \boldsymbol{k}

上から見ると半時計回りのベクトル場なので回転は上を向きます。周辺の \boldsymbol{f}(x,y)が大きくなっていますが回転は一定です。次節と比較してください。

5.2 例2

同心円状のベクトル場です。

前節と違うのは全てのベクトルが同じ大きさというところです。

以下の式で表されます。

\boldsymbol{f}(x,y) = \frac {-a y} {\sqrt{x^2 + y^2}} \boldsymbol{i} + \frac {a x} {\sqrt{x^2 + y^2}} \boldsymbol{j}

\nabla \times \boldsymbol {f}(x,y) = \frac {a}{ \sqrt{x^2 + y^2}} \boldsymbol{k}

中央に近いほど回転が大きくなります。曲率が大きいほど回転が大きくなるのですね。なお、中心は偏微分不可能なため定義できません。

5.3 例3

y方向の成分はなくx方向はyの座標に比例するベクトル場です。

以下の式で表されます。

\boldsymbol{f}(x,y) = ay \boldsymbol{i}

\nabla \times \boldsymbol {f}(x,y) = -a \boldsymbol{k}

ベクトルは全て平行ですが場所によって大きさが異なるので回転があります。

5.4 例4

中心から放射状に伸びているベクトル場です。

以下の式で表されます。

\boldsymbol{f}(x,y) = ax \boldsymbol{i} + ay \boldsymbol{j}

\nabla \times \boldsymbol {f}(x,y) = 0 \boldsymbol{k}

回転がないためグラフ下部に矢印が表示されません。

5 まとめ

・回転とは、ベクトル場の回転をベクトルで表す演算です。

・回転は以下で表されます。

\nabla \times \boldsymbol {f} = \left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} \right) \boldsymbol {i} + \left( \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {x}} \right) \boldsymbol {j} + \left( \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right) \boldsymbol {k}

または

\nabla \times \boldsymbol {f} = \left( \frac {\partial {f_z}} {\partial {y}} – \frac {\partial {f_y}} {\partial {z}} , \frac {\partial {f_x}} {\partial {z}} – \frac {\partial {f_z}} {\partial {x}} , \frac {\partial {f_y}} {\partial {x}} – \frac {\partial {f_x}} {\partial {y}} \right)

\nabla \times ではなく\boldsymbol{rot}\boldsymbol{curl} を使う場合もあります。