写像・定義域・終域
定義1
集合\(X\)の各要素に対し集合\(Y\)の要素\(1\)つが対応するとき、これを\(X\)から\(Y\)への写像(mapping,map)とよび、\(f\)などを使って
\(\qquad \qquad \qquad f:X\rightarrow Y\ \)あるいは\(\ X\overset{f}{\longrightarrow}Y\)
と表す。
定義2
写像\(f:X\rightarrow Y\)における\(X\)を定義域(domain)あるいは始域、\(Y\)を終域(codomain)とよぶ。補足
・一般的には関数と写像は同じ意味です。
・定義域の要素\(x\)が終域の要素\(y\)に対応するとき、
$$x \mapsto y$$
と表します。これは写像が\(f\)であるとすると\(f(x)=y\)と同じ意味です。
・写像が満たすべき条件と満たさなくてもよい条件は以下です。
ー定義域の要素は必ず終域のいずれかの要素に対応する。
ー定義域の\(1\)つの要素は必ず終域の\(1\)つの要素のみに対応する。
ー終域の要素はすべて定義域の要素と対応しなければならないわけではない。
・定義域を\(\mathrm{Dom} \ f\)、終域を\(\mathrm{Codom} f\)と表すこともあります。
例1
・\(X\)の要素は全て\(Y\)の要素のいずれかに対応しているので写像です。
・\(Y\)の要素に重複して対応しているものがありますがこれも写像です。
・\(X\)の中に\(Y\)へ対応しない要素があるので写像ではありません。
・\(1\)つの\(X\)の要素が\(2\)つの\(Y\)の要素に対応しているので写像ではありません。
例2
・\(\mathbb{R}\)全体から\(\mathbb{R}\)への対応を\(f(x)= 2x,\ x \in \mathbb{R}\)で定義すると、全ての\(x\)に対応する要素があるので写像です。
・\(\mathbb{R}\)全体から\(\mathbb{R}\)への対応を\( f(x)=\frac{1}{x},\ x \in \mathbb{R}\)で定義すると、\(x=0\)に対応する要素がないので写像ではありません。\(\mathbb{R}\backslash\{0\}\)全体から\(\mathbb{R}\)への対応をこのように定義すれば写像です。※\(\backslash\{0\}\)は\(0\)を除くことを表します。
・\(\mathbb{R}_{>0}\)(ただし\(\mathbb{R}_{>0} = \left\{z \in \mathbb{R} \ \middle | \ z > 0 \right\}\))全体から\(\mathbb{R}\)への対応を\(f(x)= \pm\sqrt{x},\ x \in \mathbb{R}\)で定義すると、\(1\)つの\(x\)につき要素\(2\)つが対応するので写像ではありません。\(f(x) = \sqrt{x}\)であれば写像です。
・\(\mathbb{N}\)全体から\(\mathbb{N}\)への対応を\(f(x)= \frac{4}{x},\ x \in \mathbb{N}\)で定義すると、\(x=1,2\)などには対応する要素がありますが、\(x=3\)には対応する要素がないので写像ではありません。
像
定義3 像
\(f:X \rightarrow Y\)を写像とする。
・\(x \in X\)に対する\(f(x) \in Y\)を\(f\)による\(x\)の像(image)とよぶ。
・\(A \subseteq X\)に対する\(f(A)=\left\{f(x) \in Y \ \middle | \ x \in A\right\}\)を\(f\)による\(A\)の像とよぶ。
・\(f(X)=\left\{f(x) \in Y\ \middle | \ x \in X\right\}\)を\(f\)の像とよぶ。
補足
・\(f\)の像は\(\mathrm{Im}\ f\)などと表します。
・\(f\)の像を値域(range)とよび、\(\mathrm{Range}\ f\)と表すこともあります。
・\(f\)が線形写像である場合、その表現行列を\(A\)とすると\(A\)の列空間(線形代数 – 行空間・列空間・零空間の定義)は\(f\)の像です。
例
\(X,\ Y\)を\(\mathbb{R}\)上のベクトル空間とし、写像\(f:X\rightarrow Y\)を\(f(x)=(x-4)^2+10\)で定義します。
・\(f\)による\(10\)の像は\(f(10)=46\)です。
・\(f\)による\(X=\left\{x\ \middle | \ 2 \leq x \leq 10\right\}\)の像は、
最大値は\(f(10)=46\)
最小値は極小値\(f(4)=10\)
より、\(f(X)=\left\{y\ \ \middle| \ 10 \leq y \leq 46\right\}\)です。
・\(f:\mathbb{R}^3\rightarrow \mathbb{R}^3\)を下記\(A\)を用いて\(f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}\)で定義した場合の像を求めます(行空間・列空間・零空間の基底の求め方)。
$$A=\begin{pmatrix} 1&3&4\\ 2&7&9\\ 2&6&8\\ \end{pmatrix}$$
行基本変形により行簡約階段形にすると、
第\(1\)行と第\(2\)行が基底であるので、\(s,\ t\)により、像は、
$$s\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}+t\begin{pmatrix}0\\1\\1\end{pmatrix}$$
と表されます。
逆像
定義4
\(f:X \rightarrow Y\)を写像とする。
・\(y \in Y\)に対する\(f^{-1}(y)=\left\{x \in X\ \middle | \ f(x)=y\right\}\)を\(f\)による\(y\)の逆像(inverse image)とよぶ。
・\(B \subseteq Y\)に対する
\(f^{-1}(B)=\left\{x \in X\ \middle | \ f(x) \in B\right\}\)
を\(f\)による\(B\)の逆像とよぶ。
補足
・逆像と逆写像は違う概念ですので注意してください。
例
・\(X,\ Y\)を\(\mathbb{R}\)上のベクトル空間とし、写像\(f:X\rightarrow Y\)を\(f(x)=(x-4)^2+10\)で定義すると、\(f\)による\(46\)の逆像は\(f^{-1}(46)=\{-2,10\}\)です。
・同じく写像\(f:X\rightarrow Y\)を\(f(x)=(x-4)^2+10\)で定義します。
\(Y=\left\{x\ \middle | \ 10 \leq y \leq 46\right\}\)とすると、\(f(4)=10\)が極小値なので逆像の範囲は\(f^{-1}(46)=\left\{-2,10\right\}\)によって決まり、\(f^{-1}(Y)=\left\{x\ \ \middle| \ -2 \leq x \leq 10\right\}\)となります。
核
定義5
写像\(f:X \rightarrow Y\)における\(f^{-1}(0)=\left\{x \in X \ \middle | \ f(x) =0 \right\}\)を\(f\)の核(kernel)とよぶ。
補足
・\(f\)の核は一般的には\(\mathrm{Ker} \ f\)と表します。
・\(f\)が線形写像である場合、その表現行列を\(A\)とすると\(A\)の零空間は\(f\)の核です。
例
\(f:\mathbb{R}^3\rightarrow \mathbb{R}^3\)を下記\(A\)を用いて\(f(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x}\)で定義した場合の核を求めます(これも「行空間・列空間・零空間の基底の求め方」を参考にしてください)。
$$A=\begin{pmatrix} 1&3&4\\ 2&7&9\\ 2&6&8\\ \end{pmatrix}$$
前述の像の例で計算した通り、行簡約階段形は、
$$A=\begin{pmatrix} 1&0&1\\ 0&1&1\\ 0&0&0\\ \end{pmatrix}$$
方程式にすると、
$$\begin{pmatrix} 1&0&1\\ 0&1&1\\ 0&0&0\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}$$
\(x_3\)を\(t\)として、
\begin{align}
x_1+t&=0\\
x_2+t&=0
\end{align}
移項し、
\begin{align}
x_1&=-t\\
x_2&=-t
\end{align}
したがって、
$$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=t\begin{pmatrix}-1\\-1\\1\end{pmatrix}$$
が\(f\)の核です。
定義6
写像\(f:X \rightarrow X\)を\(x\in X\)に対し\(f(x)=x\)と定義したとき、\(f\)を\(X\)上の恒等写像(identity map, identity function)とよぶ。
補足
・恒等写像は\(\mathrm{id}\)、\(\mathrm{id}_X\)(\(X\)が集合の場合)などとを表します。
・恒等写像は全単射です。
・\(g:X \rightarrow Y\)を任意の写像とすると、\(g \circ \mathrm{id}_X = \mathrm{id}_Y \circ g\)が成り立ちます。
定義7
\(X \subseteq Y\)とする。写像\(i:X \rightarrow Y\)を\(x\in X\)に対し\(i(x)=x\)と定義したとき、\(i\)を包含写像(inclusion map,inclusion function)とよぶ。
補足
・包含写像を以下のように表すことがあります。
・包含写像は単射です。包含写像を自然な単射(natural injection)とよぶことがあります。