基底ベクトル・方程式の求め方
以下の行列を例として行空間・列空間・零空間・左零空間の基底とそれぞれの空間を表す方程式を求めます。
\begin{pmatrix}
1&2&2&1\\
2&5&7&3\\
3&9&15&6
\end{pmatrix}
拡大行列を使わない方法
(a)行空間
行空間の基底は行基本変形により行簡約階段形にすることにより求められます。
\((1,1)\)成分と\((2,2)\)成分が主成分なので第\(1\)行と第\(2\)行(以下)が行空間の基底です。
$$\left\{\begin{pmatrix}1& 0& -4& -1\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}0& 1& 3& 1\end{pmatrix}\right\}$$
行空間はその基底が張る空間なので、\(s,t \in \mathbb{R}\)として、
$$
s
\begin{pmatrix}
1\\
0\\
-4\\
-1\\
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
0\\
1\\
3\\
1\\
\end{pmatrix}
$$
と表すことができます。
行空間を媒介変数を用いた方程式として表す場合、
\begin{align}
s\color{white}{+0t}&=x_1\\
t&=x_2\\
-4s+3t&=x_3\\
-s+t&=x_4
\end{align}
媒介変数を用いない場合は\(s,\ t\)を消去し、
\begin{align}
-4x_1+3x_2&=x_3\\
-x_1+x_2&=x_4
\end{align}
となります。
(b)列空間
行空間の場合と同様に列簡約階段形を求めます。
基底は第\(1\)列と第\(2\)列より、
$$
\left\{
\begin{pmatrix}
1\\0\\-3
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
0\\1\\3
\end{pmatrix}
\right\}
$$
列空間は、
$$
s
\begin{pmatrix}
1\\
0\\
-3\\
\end{pmatrix}
+t
\begin{pmatrix}
0\\
1\\
3
\end{pmatrix}
$$
と表すことができます。
媒介変数を用いた方程式は、
\begin{align}
s\color{white}{+0t}&=x_1\\
t&=x_2\\
-3s+3t&=x_3\\
\end{align}
媒介変数を用いない場合は\(s,t\)を消去して、
$$-3x_1+3x_2=x_3$$
となります。
(c)零空間
零空間は\(A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\)の解の集合(解空間)でした。右辺が\(\boldsymbol{0}\)なので両辺に行基本変形を行うことができます。上記(a)で求めた行簡約階段行列より、
$$
\begin{pmatrix}
1&0&-4&-1\\
0&1&3&1\\
0&0&0&0\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1\\ x_2\\x_3\\x_4
\end{pmatrix}
=\boldsymbol{0}
$$
これは以下のように零空間を表す方程式であることがわかります。
\begin{alignat} {4}
{}x_1{} & {} {} & -4x_3{} & {}-x_4{} &= {}& 0{} \\
{} {} & {}x_2{} & +3x_3{} & {}+x_4{} &= {}& 0{} \\
\end{alignat}
媒介変数を使って表す方法を考えます。表し方は一通りではありませんが、以下がその例です。
未知数の数は列の数と同じです。方程式の数は主成分の数と同じです。媒介変数は未知数の数と主成分の数の差だけ必要です。この例の場合、行列の列の数\(-\)主成分の数\(=4-2=2\)個です。
改めて下の式を確認ください。
\(A\)の緑色の成分が主成分で、青色の列は主成分がありません。青色の列の数は行列の列の数\(-\)主成分の数です。青色の変数\(x_3,\ x_4\)はこの列に対応します。したがって主成分のない列に対応する変数の数は必要とする媒介変数の数と同じです。
つまり主成分のない列に対応する変数を媒介変数とすれば過不足なく零空間を表すことができます。例の場合は\(x_3,\ x_4\)です。
このような、主成分がない列に対応する変数を自由変数とよびます。
\(x_3=s,\ x_4=t\)とすると、
\begin{alignat} {4}
{}x_1{} & {} {} & -4s{} & {}-t{} &= {}& 0{} \\
{} {} & {}x_2{} & +3s{} & {}+t{} &= {}& 0{} \\
\end{alignat}
移項して、
\begin{alignat} {2}
{}x_1{} &= & {}4s{} & {}+t{} \\
{}x_2{} &= & {}-3s{} & {}-t{} \\
\end{alignat}
媒介変数により零空間は、
$$
\begin{pmatrix}
4s+t\\-3s-t\\s\\t
\end{pmatrix}
=
s
\begin{pmatrix}
4\\-3\\1\\0
\end{pmatrix}
+t
\begin{pmatrix}
1\\-1\\0\\1
\end{pmatrix}
$$
と表されます。
この式より基底は、
$$
\left\{
\begin{pmatrix}
4\\-3\\1\\0
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
1\\-1\\0\\1
\end{pmatrix}
\right\}
$$
であることがわかります。
(d)左零空間
\(A^T\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\)の解空間を前項と同様に求めます。
上記(b)では列基本変形により列簡約階段形にしましたが、これを転置すれば行基本変形を行ったことになるので、以下のように表すことができます。
$$
\begin{pmatrix}
1&0&-3\\
0&1&3\\
0&0&0\\
0&0&0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1\\ x_2\\x_3
\end{pmatrix}
=\boldsymbol{0}
$$
行列を使わずに表すと、
\begin{alignat} {3}
{}x_1{} & {} {} & -3x_3{} &= {}& 0{} \\
{} {} & {}x_2{} & +3x_3{} &= {}& 0{} \\
\end{alignat}
\(x_3\)を消去して、以下が媒介変数を用いない方程式です。
$$x_1+x_2=0$$
媒介変数を用いる場合、自由変数は\(x_3\)なので\(x_3=s\)とすると、
\begin{alignat} {3}
{}x_1{} & {} {} & -3s{} &= {}& 0{} \\
{} {} & {}x_2{} & +3s{} &= {}& 0{} \\
\end{alignat}
移項して、
\begin{alignat} {2}
{}x_1{} &= & {}3s{} \\
{}x_2{} &= & {}-3s{}\\
\end{alignat}
零空間は、
$$
\begin{pmatrix}
x_1\\x_2\\x_3
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
3s\\-3s\\s
\end{pmatrix}
=
s
\begin{pmatrix}
3\\-3\\1
\end{pmatrix}
$$
基底は、
$$
\left\{
\begin{pmatrix}
3\\-3\\1
\end{pmatrix}
\right\}
$$
となります。
拡大行列を使う方法
※以下行空間と列空間の基底を求める方法は前章と同じですが、左零空間・零空間の基底の求め方と合わせて説明します。
(e)行空間・左零空間
\(A\)と行数が同じ単位行列とともに行基本変形を行うことにより行空間と左零空間の基底を求めることができます。
より、行空間の基底は、
$$
\left\{
\begin{pmatrix}
1& 0& -4& -1
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
0& 1& 3& 1
\end{pmatrix}
\right\}
$$
縦線より左側の行列に「全て\(0\)」の行があれば、その右側の行ベクトルが全て左零空間の基底です。この場合は、
$$
\left\{
\begin{pmatrix}
3\\-3\\1
\end{pmatrix}
\right\}
$$
です。
ここでは拡大行列での操作をわかりやすくするため、\(A\)を転置せず、行基本変形によって基底を求めました。\(A^T\)への列基本変形によっても同様に求めることができます。
(f)列空間・零空間
行列を転置し行基本変形を行います。
より、列空間の基底は、
$$
\begin{pmatrix}
1\\0\\-3\\
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
0\\1\\3
\end{pmatrix}
$$
縦線より左側の行列に「全て\(0\)」の行があれば、その右側の行ベクトルが全て零空間の基底です。
この場合は、
$$
\begin{pmatrix}
4\\-3\\1\\0
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
1\\-1\\0\\1
\end{pmatrix}
$$
です。
※上記手順が成り立つことを以下で証明します。\(A\)を転置した場合について述べていますが、転置しない場合でも同様に証明できます。
証明
\(A^T\)に対し右から\(Q\)を掛けることにより列簡約階段形に変形したとする。
\(A\)が\(m \times n\)の行列、ランクが\(k\)であるとすれば、\(A^T Q\)の第\(1\)行から第\(k\)行までは主成分のある行、第\(k+1\)行から第\(n\)行までは全て\(0\)の行である。
第\(i\)成分のみ\(1\)で他の成分は\(0\)であるベクトル\(\boldsymbol{x}_i\ (k \leq i \leq n)\)により、
$$\mathrm{N}(A^T Q)=\mathrm{span}( \boldsymbol{x}_{k+1},\boldsymbol{x}_{k+2},\cdots,\boldsymbol{x}_{n} )$$
と表すことができる。
\(\boldsymbol{v} \in \mathrm{N}(A^TQ)\)とすると、
$$(A^T Q)\boldsymbol{v}=A^T (Q\boldsymbol{v})=\boldsymbol{0}$$
より、
$$\mathrm{N}(A^T)=\mathrm{span}( Q\boldsymbol{x}_{k+1},Q\boldsymbol{x}_{k+2},\cdots,Q\boldsymbol{x}_{n} )$$
したがって\(Q\)の第\(k+1\)列から第\(n\)列は\(A^T\)の基底である。
■
補足1
※以下、\(A\)を転置しない場合について述べます。これは前述(a)と同じですが、証明とは異なります。転置した場合については末項を展開し確認ください。
\(A\)に対し左から\(P\)を掛けることにより行簡約階段形に変形したとします。
この例では、
$$
A=
\begin{pmatrix}
1&2&2&1\\
2&5&7&3\\
3&9&15&6\\
\end{pmatrix}
,\
P=
\begin{pmatrix}
5 & – 2 & 0\\
-2 & 1 & 0\\
3 & -3 & 1\\
\end{pmatrix}
,\
PA=
\begin{pmatrix}
1&0&-4&1\\
0&1&3&1\\
0&0&0&0
\end{pmatrix}
$$
です。
\(PA\)の左零空間を考えます(\(A\)ではない点に注意ください)。これは
$$\boldsymbol{x}^T (PA)=\boldsymbol{0}$$
の解空間ですが、例の場合は
$$
\begin{pmatrix}
x_1&x_2&x_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1&0&-4&-1\\
0&1&3&1\\
0&0&0&0
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
0&0&0&0
\end{pmatrix}
$$
の解が張る空間です。
\(PA\)の第\(3\)行は「全て\(0\)」ですが、第\(1\)行、第\(2\)行は「全て\(0\)」の行ではありません。等式が成り立つためには、
$$x_1=x_2=0$$
でなければなりません。\(x_3\)は任意の値をとります。
改めて、
$$\boldsymbol{x}^T(P A)=\boldsymbol{x}^TP A=\boldsymbol{0}$$
と分解し\(x_1=x_2=0\)を代入すると、
$$
\begin{pmatrix}
0&0&x_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
5&-2&0\\
-2&1&0\\
3&-3&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1&2&2&1\\
2&5&7&3\\
3&9&15&6
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix} 0&0&0&0\end{pmatrix}
$$
ここで、
$$\boldsymbol{w}^T=\boldsymbol{x}^T P$$
とすると、
$$\boldsymbol{w}^T A^T=\boldsymbol{0}$$
の解空間が左零空間なので、
$$x_3\begin{pmatrix} 3\\-3\\1 \end{pmatrix} \in \mathrm{N}(A^T)$$
より基底は、
$$\left\{\begin{pmatrix}3\\-3\\1\end{pmatrix}\right\}$$
となります。これは\(P\)の第\(3\)列です。
まとめると、
・\(PA\)の「全て\(0\)」ではない行に対応する\(\boldsymbol{x}^T\)の成分は\(0\)になる。
・そのため\(PA\)の「すべて\(0\)」である行に対応する\(P\)の行のみが\(\boldsymbol{x}^TP\)に残る。
・これが\(A\)の左零空間の基底になる。