※本ページの「ベクトルが張る空間の基底」「斉次方程式の解空間の基底」では基底を求めていますが、線形代数 – 行空間・列空間・零空間の基底の求め方でも同じ目的で基底を求めています。ただし本ページとは異なる方法で求め方ているところもありますのでよければこのページもご覧ください。
定義
定義1
ベクトル空間\(V\)に属するベクトルの集合\(\{\boldsymbol{v}_1, \boldsymbol{v}_1, \cdots, \boldsymbol{v}_n\}\)が以下を満たす場合、これを\(V\)の基底(basis)とよぶ。
・線形独立である ・\(V=\mathrm{span}\{\boldsymbol{v}_1, \boldsymbol{v}_2, \cdots ,\boldsymbol{v}_n\} \)
定義2
ベクトル空間\(V\)の基底に属するベクトルの個数を次元(dimension)とよび、\(\mathrm{dim} V\)と表す。
・\(\mathrm{span}\)とはベクトルの集合による全ての線形結合の集合を表すもので、空間を張るまたは生成すると同じ意味です。
例えば\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3\)が線形独立であった場合、
$$\mathrm{span} \{\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3\}=\mathbb{R}^3$$
であり、\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3\)は\(\mathbb{R}^3\)を張る、あるいは生成する、といいます。
・ベクトル空間の基底は\(1\)通りとは限りません。複数の異なるベクトルの集合が同じベクトル空間の基底となることがあります(後述の定理参照)。
・基底を行(列)ベクトルとして並べた行列に対して行(列)基本変形を行っても行(列)ベクトルが基底であることに変わりはありません(次節参照)。
・基底は単位ベクトルである必要はありません。また、各軸に沿っている必要もありません。単位ベクトルかつ各軸に沿った基底は標準基底とよびます。たとえば\((1,0),(0,1)\)は\(\mathbb{R}^2\)の、\((1,0,0),(0,1,0),(0,0,1)\)は\(\mathbb{R}^3\)の標準基底です。
ベクトルが張る空間の基底
\(V=\mathrm{span}(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\boldsymbol{v}_3)\)とした場合、\(V\)の基底は何でしょう。
線形独立/線形従属による違い
\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2,\ \boldsymbol{v}_3\)が線形独立であれば定義よりこれらが基底となります。
もしこれら\(3\)つは線形従属だが、\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_3\)が線形独立であった場合、張る空間は\(\boldsymbol{V}=\mathrm{span}(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_3)\)と、\(\boldsymbol{v}_2\)を省略できるので、\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_3\)が基底となります。
つまり、複数のベクトルの中で線形独立であるものが、それらが張る空間の基底となります。
線形独立なベクトルの求め方
\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2,\ \boldsymbol{v}_3\ \)が線形独立であった場合、
$$c_1 \boldsymbol{v}_1 + c_2 \boldsymbol{v}_2 + c_3 \boldsymbol{v}_3 =\boldsymbol{0} $$
が成り立つ条件は、
$$c_1=c_2=c_3=0$$
でした。
\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2,\ \boldsymbol{v}_3\ \)を列ベクトルとした行列で表すと
$$
\begin{pmatrix}
v_{11}&v_{21}&v_{31}\\
v_{12}&v_{22}&v_{32}\\
v_{13}&v_{23}&v_{33}\\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}c_{1}\\c_{2}\\c_{3}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}
$$
となるので、この行列に行基本変形を行っても\(c_1=c_2=c_3=0\)のときに等式が成り立つ、つまり行基本変形を行っても変わらず線形独立であることがわかります。
これらが線形従属であった場合も同様のことがいえます。
つまり、行基本変形を行っても列ベクトルの線形独立/線形従属の関係は変わりません。
※行基本変形により列ベクトルの線形独立/線形従属の関係を知ることができますが、行基本変形を行った列ベクトルが張る空間は一般に元のベクトルが張る空間とは異なります。
※ここではベクトルを列ベクトルとして並べた行列に対し行基本変形を行う方法について述べました。行ベクトルとした行列に行基本変形を行うことでも基底が求められます。これについては「線形代数 – 行空間・列空間・零空間の基底の求め方」を参照ください。
例1
次のベクトルが張る空間の基底を求めます。
これらのベクトルを列ベクトルとした行列が、行簡約階段形となるまで行基本変形を行います。
第\(1\)列から第\(3\)列まで全てに主成分(緑色の成分)があったので\(3\)つのベクトルは線形独立です。
列ベクトルが線形独立であった場合、行基本変形を行っても線形独立であることは変わりません(同様に列ベクトルが線形従属であった場合も行基本変形を行った後の列ベクトルは線形従属です)。
したがって、
が基底となります。
例2
例1と同じように行基本変形により行簡約階段形に変形します。
第\(1\)列から第\(3\)列までに主成分があったので
が基底です。
斉次方程式の解空間の基底
\(0\)ではない項の次数が同じである方程式を斉次方程式、方程式の解の集合を解空間とよびます。ここでは斉次連立\(1\)次方程式の解空間を求めます。
例3
以下の方程式について考えます。
\begin{alignat} {3}
x_1 & {}+{} &2x_2 &{}+{} &x_3 &{}={} & 0 \\
3x_1 & {}+{} &4x_2 &{}+{} &7x_3 &{}={} & 0 \\
2x_1 & {}+{} &4x_2 &{}+{} &2x_3 &{}={} & 0 \\
\end{alignat}
これは行列で、
$$
\begin{pmatrix}
1&2&1\\
3&4&7\\
2&4&2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1\\x_2\\x_3
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
0\\0\\0
\end{pmatrix}
$$
と表すことができます。この係数行列に行基本変形を行っても方程式として成立するので、行簡約階段形に変形し、
改めて行列を使わずに表すと、
\begin{alignat} {3}
x_1 & {}+{} & &{}+{} &3x_3 &{}={} & 0 \\
& &-2x_2 &{}+{} &4x_3 &{}={} & 0 \\
\end{alignat}
未知数が\(3\)つに対し式は\(2\)つしかありません。したがって解空間の要素は一意には決まりません。そこで媒介変数を使って表すことを考えます。
\(t =x_3\)とすると、
\begin{align}
x_1&=-3t\\
x_2&=2t\\
x_3&=t\\
\end{align}
$$
\begin{pmatrix}
x_1\\x_2\\x_3
\end{pmatrix}
=
t
\begin{pmatrix}
-3\\2\\1
\end{pmatrix}
$$
したがって
\begin{pmatrix}
-3\\2\\1
\end{pmatrix}
が基底となります。
例4
\begin{alignat} {4}
x_1 & {}+{} &2x_2 &{}+{} &x_3 &{}&{}+{} &x_4 &{}={} & 0 \\
3x_1 & {}+{} &4x_2 &{}+{} &5x_3 &{}&{}+{} &7x_4 &{}={} & 0 \\
2x_1 & {}+{} &4x_2 &{}+{} &2x_3 &{}&{}+{} &2x_4 &{}={} & 0 \\
4x_1 & {}+{} &8x_2 &{}+{} &4x_3 &{}&{}+{} &4x_4 &{}={} & 0 \\
\end{alignat}
同様に係数行列を行簡約階段形に変形します。
行列を使わずに表すと、
\begin{alignat} {4}
x_1 & {}+{} & &{}+{} &3x_3 &{}&{}+{} &5x_4 &{}={} & 0 \\
& {} {} &-2x_2 &{}+{} &2x_3 &{}&{}+{} &4x_4 &{}={} & 0 \\
\end{alignat}
未知数が\(4\)つに対し式は\(2\)つなのでこの場合は媒介変数を\(2\)つ使います。
\(s =x_3,\ t=x_4\)とすると、
$$
\begin{align}
x_1&=-3s-5t\\
x_2&=s+2t\\
x_3&=s\\
x_4&=t\\
\end{align}
$$
$$
\begin{pmatrix}
x_1\\x_2\\x_3\\x_4
\end{pmatrix}
=
s
\begin{pmatrix}
-3\\1\\1\\0
\end{pmatrix}
+
t
\begin{pmatrix}
-5\\2\\0\\1
\end{pmatrix}
$$
したがって
$$
\begin{pmatrix}
-3\\1\\1\\0
\end{pmatrix}
,\
\begin{pmatrix}
-5\\2\\0\\1
\end{pmatrix}
$$
が基底となります。
定理
ベクトル空間\(V\)に\(A=\{\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\cdots,\boldsymbol{u}_n\}\)と\(B=\{\boldsymbol{w}_1,\boldsymbol{w}_2,\cdots,\boldsymbol{w}_n\}\)が属し、それぞれが線形独立であった場合、以下が成り立つ。 $$\mathrm{span}(A)=\mathrm{span}(B)=V$$
証明
\(A\)と\(B\)の各ベクトルは\(V\)に属するので、\(B\)の各ベクトルは\(A\)のベクトルにより以下のように表される。
\begin{align}
\boldsymbol{w}_1&=a_{11}\boldsymbol{u}_1+a_{12}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{1n}\boldsymbol{u}_n\\
\boldsymbol{w}_2&=a_{21}\boldsymbol{u}_1+a_{22}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{2n}\boldsymbol{u}_n\\
&\cdots\\
\boldsymbol{w}_n&=a_{n1}\boldsymbol{u}_1+a_{n2}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{nn}\boldsymbol{u}_n\\
\end{align}
\(\boldsymbol{v}_b\in \mathrm{span}(B)\)とすると、
\begin{align}
\boldsymbol{v}_b&=b_1 \boldsymbol{w}_1+b_2 \boldsymbol{w}_2+\cdots+b_n \boldsymbol{w}_n\\
&=b_1(a_{11}\boldsymbol{u}_1+a_{12}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{1n}\boldsymbol{u}_n)\\
&+b_2(a_{21}\boldsymbol{u}_1+a_{22}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{2n}\boldsymbol{u}_n)\\
&+\cdots\\
&+ b_n(a_{n1}\boldsymbol{u}_1+a_{n2}\boldsymbol{u}_2+\cdots+a_{nn}\boldsymbol{u}_n)\\
&=d_{1}\boldsymbol{u}_1+d_{2}\boldsymbol{u}_2+\cdots+d_{n}\boldsymbol{u}_n
\end{align}
と\(A\)のベクトルの線形結合で表すことができるので、
$$\mathrm{span}(A) \subseteq \mathrm{span}(B)$$
同様に\(A\)の各ベクトルは\(B\)のベクトルにより以下のように表される。
\begin{align}
\boldsymbol{u}_1&=b_{11}\boldsymbol{w}_1+b_{12}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{1n}\boldsymbol{w}_n\\
\boldsymbol{u}_2&=b_{21}\boldsymbol{w}_1+b_{22}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{2n}\boldsymbol{w}_n\\
&\cdots\\
\boldsymbol{u}_n&=b_{n1}\boldsymbol{w}_1+b_{n2}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{nn}\boldsymbol{w}_n\\
\end{align}
\(\boldsymbol{v}_a\in \mathrm{span}(A)\)とすると、
\begin{align}
\boldsymbol{v}_a&=a_1 \boldsymbol{u}_1+a_2 \boldsymbol{u}_2+\cdots+a_n \boldsymbol{u}_n\\
&=a_1(b_{11}\boldsymbol{w}_1+b_{12}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{1n}\boldsymbol{w}_n)\\
&+a_2(b_{21}\boldsymbol{w}_1+b_{22}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{2n}\boldsymbol{w}_n)\\
&+\cdots\\
&+ a_n(b_{n1}\boldsymbol{w}_1+b_{n2}\boldsymbol{w}_2+\cdots+b_{nn}\boldsymbol{w}_n)\\
&=c_{1}\boldsymbol{w}_1+c_{2}\boldsymbol{w}_2+\cdots+c_{n}\boldsymbol{w}_n
\end{align}
と\(B\)のベクトルの線形結合で表すことができるので、
$$\mathrm{span}(B) \subseteq \mathrm{span}(A)$$
以上より、
$$\mathrm{span}(A) = \mathrm{span}(B)$$
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