基底の変換行列
\(B=\{\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2\}\)と\(B’=\{\boldsymbol{v}’_1,\ \boldsymbol{v}’_2\}\)がそれぞれ\(\mathbb{R}^2\)の基底であるとします。
\(\boldsymbol{v}’_1,\ \boldsymbol{v}’_2\)が\(\mathbb{R}^2\)の基底かつ\(\boldsymbol{v}’_1,\ \boldsymbol{v}’_2 \in \mathbb{R}^2\)より\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2\)はスカラー\(p_{11},\ p_{21},\ p_{12},\ p_{22}\)を用いて、
$$\boldsymbol{v}’_1=p_{11}\boldsymbol{v}_1 + p_{21}\boldsymbol{v}_2\tag{1}$$
$$\boldsymbol{v}’_2=p_{12}\boldsymbol{v}_1 + p_{22}\boldsymbol{v}_2\tag{2}$$
と表すことができます。
このスカラーを成分とし、
$$\boldsymbol{p}_1=\begin{pmatrix}p_{11}\\p_{21}\end{pmatrix}$$
$$\boldsymbol{p}_2=\begin{pmatrix}p_{12}\\p_{22}\end{pmatrix}$$
を定義すると下の式のように行列の積で表すことができます。
\begin{align}
\boldsymbol{v}’_1=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{v}_1&
\boldsymbol{v}_2
\end{pmatrix}
\boldsymbol{p}_1\tag{3}
\end{align}
\begin{align}
\boldsymbol{v}’_2=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{v}_1&
\boldsymbol{v}_2
\end{pmatrix}
\boldsymbol{p}_2\tag{4}
\end{align}
※この場合、\(\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2,\ \boldsymbol{v}’_1,\ \boldsymbol{v}’_2\)は\(2 \times 1\)のベクトル、\(\begin{pmatrix}
\boldsymbol{v}_1&
\boldsymbol{v}_2
\end{pmatrix}\)は\(2 \times 2\)の行列です。
さらに、
$$V=\begin{pmatrix}\boldsymbol{v}_1&\boldsymbol{v}_2\end{pmatrix},\ V’=\begin{pmatrix}\boldsymbol{v}’_1&\boldsymbol{v}’_2\end{pmatrix},\ P=\begin{pmatrix}\boldsymbol{p}_1&\boldsymbol{p}_2\end{pmatrix}$$
とすると、
$$V’=VP$$
という関係が得られます。この\(P\)を基底の変換行列(change of basis matrix)とよびます。
ここまでは\(\mathbb{R}^2\)の場合について述べてきましたが、\(\mathbb{R}^n\)の場合の基底の変換行列は以下です。
$$P=
\begin{pmatrix}
p_{11}&p_{12}&\cdots&p_{1n}\\
p_{21}&p_{22}&\cdots&p_{2n}\\
\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\
p_{n1}&p_{n2}&\cdots&p_{nn}
\end{pmatrix}
$$
変換前と変換後の基底を明確にする場合は\(P_{V\rightarrow V’}\)または\(P_{V’\leftarrow V}\)と表します。
同じ手順で\(V’\)から\(V\)への変換行列についても求めることができます。したがって上記の\(P\)は正則であり、逆行列により
$$V=V’P^{-1}$$
と表すことができます。
基底に関する座標の変換
ベクトル空間の要素はその基底と座標の線形結合で表すことができます。例えば、\(\{\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2\}\)を\(V\)の基底とすると、\(\boldsymbol{v} \in V\)は座標\(x_1,\ x_2\)により、
$$\boldsymbol{v}=x_1\boldsymbol{v}_1+x_2 \boldsymbol{v}_2$$
と表されます。
では、ベクトルを変えずに基底を変えると、座標はどう変わるでしょう。
$$V=\begin{pmatrix}\boldsymbol{v}_1& \boldsymbol{v}_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}v_{11}&v_{21}\\v_{12}&v_{22}\end{pmatrix},\ \ \ \boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix}$$
とするとベクトルは、
\begin{align}
\boldsymbol{v}&=
\begin{pmatrix}
v_{11}&v_{21}\\
v_{12}&v_{22}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{1}\\
x_{2}
\end{pmatrix}
=V\boldsymbol{x}
\end{align}
と表されます。
別の基底\(V’=\{\boldsymbol{v}’_1,\boldsymbol{v}’_2\}\)と座標\(\boldsymbol{x}’\)を定義します。
基底変換行列を\(P\)、\(V’\)に関する座標を\(\boldsymbol{x}’\)とすると、
$$\boldsymbol{v}=V\boldsymbol{x}=V’\boldsymbol{x}’=VP\boldsymbol{x}’$$
より、
$$\boldsymbol{x}’=P^{-1}\boldsymbol{x}$$
つまり、基底を変えた場合、基底変換行列の逆行列を左から掛ければ、変えた後の基底に関する座標が得られます。
表現行列の変換
前節ではベクトルの座標の、基底による違いについて述べました。
次に、線形写像が基底によって変わるのか、変わるとすればどう変わるのかを考えます。
線形写像\(f:U\rightarrow W,\ \boldsymbol{a} \in U\)に対し\(f(\boldsymbol{a}) = A\boldsymbol{a}\)と表すことができる場合、\(A\)を\(f\)の表現行列(representative matrix, representation matrix)とよびます。
例として、表現行列と基底の関係を以下の条件にて求めます。
・線形写像
\(\ \ \ \ \ f:\mathbb{R}^2 \rightarrow \mathbb{R}^2,\ \boldsymbol{u} \mapsto \boldsymbol{w}\)
・\(\mathbb{R}^2\)の基底(ベクトルを\(2\)通りの基底で表し比較します)
\(\ \ \ \ \ B=\{\boldsymbol{v}_1,\ \boldsymbol{v}_2\},\ B’=\{\boldsymbol{v}’_1,\ \boldsymbol{v}’_2\}\)
・基底を\(B\)とした場合の\(f\)の表現行列
\(\ \ \ \ \ A\)
・基底をまとめた行列
\(\ \ \ \ \ V=\begin{pmatrix}\boldsymbol{v}_1&\boldsymbol{v}_2\end{pmatrix},\ V’=\begin{pmatrix}\boldsymbol{v}’_1&\boldsymbol{v}’_2\end{pmatrix}\)
・基底の関係
\(\ \ \ \ \ V’=VP\)
・ベクトルと基底の関係
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{u}=x_1 \boldsymbol{v}_1+x_2 \boldsymbol{v}_2\)
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{w}=y_1 \boldsymbol{v}_1+y_2 \boldsymbol{v}_2\)
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{u}=x’_1 \boldsymbol{v}’_1+x’_2 \boldsymbol{v}’_2\)
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{w}=y’_1 \boldsymbol{v}’_1+y’_2 \boldsymbol{v}’_2\)
・座標のベクトル
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix},\ \boldsymbol{y}=\begin{pmatrix}y_1\\y_2\end{pmatrix}\)
\(\ \ \ \ \ \boldsymbol{x}’=\begin{pmatrix}x’_1\\x’_2\end{pmatrix},\ \boldsymbol{y}’=\begin{pmatrix}y’_1\\y’_2\end{pmatrix}\)
以下、\(4\)通りの組み合わせについて、座標の関係を求めます。
① ベクトル:\(\boldsymbol{u}\)、基底:\(B\)
② ベクトル:\(\boldsymbol{w}\)、基底:\(B\)
③ ベクトル:\(\boldsymbol{u}\)、基底:\(B’\)
④ ベクトル:\(\boldsymbol{w}\)、基底:\(B’\)
①→②
定義の通り、線形写像による座標の変換は、
$$\boldsymbol{y}=A\boldsymbol{x}$$
と表されます。
③→①
線形写像前のベクトルが基底を変えることによる座標の変換ですが、これは前節の通りです。
$$\boldsymbol{x}=P\boldsymbol{x}’$$
②→④
これも前節と同様、
$$\boldsymbol{y}’=P^{-1}\boldsymbol{y}$$
③→④
上記③→①、①→②、②→④を組み合わせることにより、
$$\boldsymbol{y}’=P^{-1}\boldsymbol{y}=P^{-1}A\boldsymbol{x}=P^{-1}AP\boldsymbol{x}’$$
つまり、基底\(B\)における表現行列が\(A\)であった場合、基底\(B’\)ではこれが\(P^{-1}AP\)に変わります。