線形代数 – 写像の合成

投稿者: | 2024年7月14日

定義

定義1

\(f:X\rightarrow Y,\ g:Y\rightarrow Z\)を写像とする。\(x\in X\)から\(g(f(x))\in Z\)への対応を\(f\)と\(g\)の合成写像(composite mapping または composition mapping)とよび、\(g\circ f\)と表す。

補足

・次の図のように、\(f\)を\(x\in X\)から\(y\in Y\)、\(g\)を\(f(x)\in Y\)から\(g(f(x))\)への対応とした場合、\(g\circ f\)は\(x\in X\)から\(g(f(x)) \in Z\)への対応です。

・上記の場合、\(f \circ g\)ではなく\(g \circ f\)と表す点に注意してください。

・写像\(f,\ g:\mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R}\)が\(f(x)=x+1,\ g(x)=x^2\)で定義されるとします。

$$(g\circ f)(x)=(x+1)^2$$

は合成写像です。

性質

1.  一般に、\(g \circ f \neq f \circ g\)である。

写像\(f,\ g:\mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R}\)が\(f(x)=x+1,\ g(y)=y^2\)で定義されるとします。

$$(g\circ f)(x)=(x+1)^2$$

$$(f\circ g)(x)=x^2+1$$

となることからわかるように、交換すると同一にはなりません。

2.  \(f:X\rightarrow Y,\ g:Y\rightarrow Z,\ h:Z\rightarrow W\)を写像とすると、

$$h \circ (g \circ f) = (h \circ g) \circ f$$

が成り立つ(結合則)。

以下より同一であることがわかります。

$$(h \circ (g \circ f)) (x) = h ((g \circ f) (x)) = h(g(f(x)))\tag{1}$$

$$((h \circ g) \circ f) (x) = (h \circ g) (f(x)) = h(g(f(x)))\tag{2}$$

以下の図では緑色が\((1)\)、青色が\((2)\)です。

経路は異なりますが定義域と終域は同じであることがわかります。

3.  写像\(f:X\rightarrow Y,\ g:Y\rightarrow Z\)がどちらも単射であるなら\(g \circ f\)も単射である。

\(x_1,\ x_2 \in X,\ f(x_1),\ f(x_2) \in Y,\ g(f(x_1)),\ g(f(x_2)) \in Z\)とします。

\(f\)が単射かつ\(x_1 \neq x_2\)であるなら \(f(x_1) \neq f(x_2)\)です。

\(g\)が単射かつ\(f(x_1) \neq f(x_2)\)であるなら \(g(f(x_1)) \neq g(f(x_2))\)です。

したがって\(f\)と\(g\)が単射かつ\( x_1 \neq x_2\)であるなら \(g(f(x_1)) \neq g(f(x_2))\)

なので\(g \circ f\)は単射です。

別の証明方法
\(g\)が単射かつ\(g(f(x_1))=g(f(x_2))\)であるなら\(f(x_1)=f(x_2)\)です。

\(f\)が単射かつ\(f(x_1)=f(x_2)\)であるなら\(x_1=x_2\)です。

したがって\(f\)と\(g\)が単射かつ\( g(f(x_1))=g(f(x_2))\)であるなら \(x_1=x_2\)

なので\(g \circ f\)は単射です。

4.  写像\(f:X\rightarrow Y,\ g:Y\rightarrow Z\)がどちらも全射であるなら\(g \circ f\)も全射である。

\(x \in X,\ f(x) \in Y,\ g(f(x)) \in Z\)とします。

\(g\)が全射であるなら\(g(f(x)) \in Z\)を満たす\(f(x) \in Y\)が存在します。

\(f\)が全射であるなら\(f(x) \in Y\)を満たす\(x \in X\)が存在します。

\(f\)と\(g\)が全射であるなら\(g(f(x)) \in Z\)を満たす\(x \in X\)が存在するので\(g \circ f\)は全射です。

5.  合成写像\(g \circ f\)が単射であるなら\(f\)も単射である。

\(x_1,\ x_2 \in X,\ f(x_1),\ f(x_2) \in Y,\ g(f(x_1)),\ g(f(x_2)) \in Z\)とします。

\(g \circ f\)が単射かつ\(x_1 \neq x_2\)であるなら\(g(f(x_1)) \neq g(f(x_2))\)です。

\(g(f(x_1)) \neq g(f(x_2))\)であるなら写像の定義より\(f(x_1) \neq f(x_2)\)です。

したがって\(g \circ f\)が単射かつ\(x_1 \neq x_2\)であるなら\(f(x_1) \neq f(x_2)\)なので\(f\)は単射です。

※以下のように\(g(f(x_1)) \neq g(f(x_2))\)であるにもかかわらず\(f(x_1) = f(x_2)\)であった場合、\(Y\)の\(1\)つの要素が\(Z\)の\(2\)つの要素に対応することになり、これは写像ではありません。したがって\(f(x_1) \neq f(x_2)\)でなければなりません。

別の証明方法
\(f(x_1)=f(x_2)\)であるなら写像の定義より\(g(f(x_1)) = g(f(x_2))\)です。

\(g \circ f\)が単射かつ\(g(f(x_1)) =g(f(x_2))\)であるなら\(x_1=x_2\)です。

したがって\(g \circ f\)が単射かつ\(f(x_1)=f(x_2)\)であるなら\(x_1=x_2\)なので\(f\)は単射です。

※\(g \circ f\)が単射であっても\(g\)が単射とは限りません。

例えば、以下の場合、\(g \circ f\)は単射ですが\(g\)は単射ではありません。

6.  合成写像\(g \circ f\)が全射であるなら\(g\)も全射である。

\(x \in X,\ f(x) \in Y,\ g(f(x)) \in Z\)とします。

\(g \circ f\)が全射であるなら\(g(f(x)) \in Z\)を満たす\(x \in X\)が存在します。

定義より\(f(x) \in Y\)を満たす\(x \in X\)が存在します。

したがって\(g(f(x)) \in Z\)を満たす\(f(x) \in Y\)が存在するので\(g\)は全射です。

※\(g \circ f\)が全射であっても\(f\)は全射とは限りません。例えば、前項と同様ですが、以下の場合、\(g \circ f\)は全射ですが\(f\)は全射ではありません。

7.  写像\(f:X\rightarrow Y,\ g:Y\rightarrow Z\)がどちらも全単射であるなら\(g \circ f\)も全単射である。

前述3.  4. よりこれが成り立つことが分かります。

8.  写像\(g \circ f\)が全単射であるなら\(f\)は単射であり\(g\)は全射である。

前述5.  6. よりこれが成り立つことが分かります。\(f\)が全射とは限らない理由、\(g\)が単射とは限らない理由も同じです。

9.  合成写像\(g \circ f\)が全単射であるなら、 $$(g \circ f)^{-1} = f^{-1} \circ g^{-1}$$

\(x,\in X,\ y = f(x) \in Y,\ z = g(y) \in Z\)とします。

\(x\)は以下のように\(2\)通りで表すことができます。

$$x=(g \circ f)^{-1}(z)$$

$$x=f^{-1}(y)=f^{-1}(g^{-1}(z))$$

したがって、

$$(g \circ f)^{-1}(z)=(f^{-1} \circ g^{-1})(z)$$

より、

$$(g \circ f)^{-1}=f^{-1} \circ g^{-1}$$

であることがいえます。

図での確認
この関係は以下のように表されます。

逆写像は以下です。

オレンジ色が\((g \circ f)^{-1}\)、青色と緑色が\(f^{-1} \circ g^{-1}\)です。両者が等しいことがわかります。