ラウンドアバウトは渋滞が起きやすい?

投稿者: | 2021年6月30日

ラウンドアバウトをご存じでしょうか。ヨーロッパでは古くは18世紀から存在しており、1960年代には自動車の交通に合わせた、現在の様式の導入が始まりました。日本でも数年前より各地に設置されています。

ラウンドアバウトの利点はいくつかありますが、最も大きいのは安全性であるといわれています。

では渋滞の起きやすさはどうでしょう。このことについてはあまり知られていないように思えます。調べてみると、ラウンドアバウトでは交通量が増えたときに渋滞が起きやすい、あるいはその逆に渋滞が起きにくい、という両方の情報がありました。どちらも正しいように思えます。ではシミュレーションを行ってみたらどうなるのだろう、と思い試してみました。

(1)ラウンドアバウトとは?

現在、多くの交差点は1点から4方向に放射状に道路が敷設されています(十字路とよぶことにします)。一方、ラウンドアバウトは中央に円形の道路(環道)があり、環道の数か所から放射状に道路が接続されます。

環道。環道の車が優先です。環道の車はいずれかの丁字の箇所で左折することにより目的の方向へ進むことはできます。

一般的に信号機はありません。環道に進入するときは一旦停止せず流れに合わせて合流します。

(2)ラウンドアバウトのメリット・デメリット

主なメリットとデメリットは以下です。

メリット:
・安全性が高い。
・信号機が不要。
・四叉路以外の交差点であっても円滑に通行できる。

デメリット:
・環道を敷設するための土地が必要。

安全性が最も大きなメリットです。実際、過去にラウンドアバウトにすることによって事故が減ったという統計があります。

私はラウンドアバウトが混とんとしているように思え、安全性に問題があるのではないかと思っていました。しかし、むしろドライバーはラウンドアバウトに入るときに慎重になるために事故が起きにくくなるようです。

デメリットは土地が必要という点以外あまり見当たらないのですが、この問題は大きそうです。都会はもちろん地方でも既存の交差点の周囲に建築物がないところはそう多くありません。そのようなところをラウンドアバウトにしようとすると、立ち退きの交渉から始めないといけないことになります。

(3)渋滞の起きやすさをどう比較するか

渋滞の起きやすさは一般的に交通容量として表現されます。交通容量とは交通量の上限です。交通量とは道路のある断面を単位時間当たりに通る車の量です。つまり、交通容量が大きいほど渋滞が起きにくいことになります。

シミュレーションでは交通量を変えて、時間とともに待ち行列が長くなる状態が発生しているかどうかを比較しました。

(4)シミュレーション

十字路とラウンドアバウトのいずれがより交通容量が大きいかを比較します。十字路はさらに信号機がない場合と信号機がある場合に分けます。それぞれ「十字路(信号機なし)」「十字路(信号機なし)」と表記します。

方針は以下です。

・車が4方向からやってきて直進・右折・左折のいずれかをして通り過ぎます(直進の割合が多く右折・左折は少ない設定にしています)。
・十字路(信号機なし)の場合、交差点の手前で一旦停止し、進行方向を遮る車がなければ進入します。進行方向に車があればなくなるまで待ちます。縦方向の道路と横方向の道路のどちらかが優先ではありません(どちらの道路も直進であっても一旦停止します)。
・十字路(信号機あり)の場合、信号にしたがって車は移動します。右折の矢印信号があります(赤信号の下の横棒が青くなっている期間は右折可)。
・十字路(信号機なし・あり)には右折専用レーンがあります。
・ラウンドアバウトの場合、環道に合流するときに一旦停止しません。もし合流によって前方の車との距離が近くなった場合は直後に速度を調整して車間距離を保ちます。

操作は以下です。

・「開/止」:押すごとに実行/一時停止を切り替えます。
・「方式」:十字路(信号機なし)、十字路(信号機あり)、ラウンドアバウトを切り替えます。
・「量」:交通量を切り替えます(3段階)。
・「速度」:シミュレーションの速度を切り替えます(3段階)。表示の速度の違いだけで、シミュレーションの結果は変わりません。

他、以下ご了解ください。

・図中の小さな丸が車です。区別するために色を変えています。
・なるべく負荷を減らすため、道路は簡略化して描いています。
・直進道路から右折レーンへは瞬間的に移動します(描画を手抜きしています)。
・すべての自動車は同じ速度で移動します(車間距離を調整する場合を除きます)。
・発進時は速度が0の状態から定常の速度に変わります。停止時も同様です。

(5)シミュレーションの考察1

交通量を「多」、シミュレーション速度を「速」に設定し、十字路(信号機なし・あり)・ラウンドアバウトで比較してみてください。

十字路(信号機なし)は交差点の通過待ちの車が増えてゆきますね。

十字路(信号機あり)は、すぐには信号待ちの車が累積しませんが、徐々に増えてゆきます。つまり十字路はどちらも交通容量を超えた状態です。

ラウンドアバウトの場合は進入待ちの車が累積することはありません。交通容量はもう少し大きいといえます。

(6)シミュレーションの考察2

交差点へ向かう車線(流入)の交通量と離れる車線(流出)の交通量を比較してみましょう。たとえば右端から中央へ移動する車は流入、中央から右へ移動する車は流出です。

十字路(信号機なし)の場合、明らかに流入側の交通量に比べて流出側の交通量が少なくなっています。両者が同じでなければ平衡を保てません。流入側が多ければその差分だけ、流入側に累積してゆきます。

十字路(信号機あり)の場合はわかりづらいのですが、閑散としているときと混雑しているときがあります。これは信号待ちによるものです。信号が青のときは直進の車はスムーズに流れますが、平均すると流入より流出が少なくなっているはずです。

ラウンドアバウトの場合は流入量と流出量が同じようです。したがって渋滞が発生しません。

(7)シミュレーションの考察3

三者の交通容量が違うことがわかりました。ではこの違いはどこにあるのでしょう。

十字路(信号機なし)の場合、進入先の車線の空きを待ちます。各車の行先がばらばらなので、一台一台の待ち時間が発生します。それぞれの車が交差点を通過するためにかかる時間は、他の方式と比べても少ないはずです。しかしこれが道路の交通容量を小さくする原因になります。

十字路(信号機あり)は、赤信号によって止まった車の待ち時間は非常に大きくなります。しかし、青信号の間は一旦停止する必要がありません(対向車通過を待つ右折車を除きます)。効率よく車が流れます。赤信号によりせき止められることによるマイナスを差し引いても、十字路(信号機なし)よりは交通容量が小さくなりにくいのでしょう。

ラウンドアバウトの場合、合流時に減速することはあっても止まることはあまりありません。したがって交通容量を小さくする原因が少ないといえます。

(8)まとめと補足

・シミュレーション結果ではラウンドアバウトの交通容量が最も大きく、次いで十字路(信号機あり)、十字路(信号機なし)の順でした。

・ただし、ラウンドアバウトと十字路(信号機あり)の交通容量の差は顕著というほどでもありませんでした。交通量を「多い」に設定するとラウンドアバウトの環道はかなり余裕のない状態です。もう少し交通量が増えると渋滞が発生します。
もし差が縮まる、あるいは逆転するとすれば通過時の速度に違いがある場合が考えられます。ラウンドアバウトの場合は進入時に慎重になります。これに対し、十字路(信号機あり)の場合、青信号で直進する車は減速する必要がありません。この速度の差は本ページでは考慮しませんでした。しかし、少なくとも交通容量の点でラウンドアバウトは十字路(信号機つき)に比べて交通容量の点で大きく劣っているということはなさそうです。

・交通容量ではなく、遅延(通過に要する時間)の平均を比較すると違った結果になることが予想されます。交通量が少ない場合は検証するまでもなく、十字路(信号機なし)、ラウンドアバウト、十字路(信号機あり)の順に小さいはずですね。遅延と交通容量の関係は必ずしも一致するものではありません。

・結局、安全性や土地の問題を除外すればどれが最適なのでしょう。交通量が少ないところでは遅延の小さい十字路(信号機なし)がよいでしょう。渋滞が問題になりそうなところではラウンドアバウトか十字路(信号機あり)ということになります。

・ただし、シミュレーションでは4方向の交通量が同じ場合のみを試しています。この量が異なる場合は違った結果になるかもしれません。たとえば幹線道路に交通量の少ない道路が接続されているような場合です。十字路(信号機あり)にし、幹線道路側の青信号の時間を長くするとよいのかもしれません。