送りバントは有効?(野球)

投稿者: | 2021年6月5日

皆さん、野球は好きでしょうか。私は少年野球のチームに入っていたし、大人になってからも草野球をやっていたこともありました。観戦も好きで、学生の頃は高校野球もよく観ていました。

しかし、特に高校野球に関して違和感のあったことが一つだけありました。送りバント(犠牲バント)です。手堅いところが嫌いではないのですが、戦略としては本当に正しいのでしょうか。かねてより疑問に思っていたことでもあるのでシミュレーションで確かめてみました。

(1)送りバントのメリットとデメリット

あえて送りバントが何かを説明する必要はないかと思いますが、簡単に送りバントのメリットとデメリットを挙げてみます。

メリットの大半はランナーを進塁させることでしょう。二塁にランナーがいて次のバッターがシングルヒットを打てば得点できるかもしれません。送りバントに成功すればアナウンサーが「得点圏にランナーが進みました」と、攻撃側にとって都合のよい状況であるかのように伝えますね。二塁にランナーがいれば得点できる可能性が上がるということは広く認識されています。

デメリットはもちろんアウトカウントがほぼ確実に一つ増えることです。その犠牲を払って二塁へランナーを進め、次にシングルヒットが出ても得点できるとは限りません。三塁に進塁するだけで、もう一本ヒットか犠打が必要になる可能性もあります。1点を取ることができる確率は上がるかもしれませんが、2点以上を取る確率は下がります。

さて、デメリットを上回るメリットがあるのでしょうか。

(2)シミュレーション

早速シミュレーションをしましょう。

以下がシミュレーションの方針です。

・バントの効果を比較するため、バントをするチームと全くしないチーム(設定によってはどちらもします)が対戦します。
・複数の試合を行い平均の1イニングあたりの得点を比較します。
・両チームの打率などの条件は同じです。バントをするかしないかの違いしかありません。
・「得点」のボタンを押すと1イニングあたりの得点がグラフで表示されます。1試合9イニングでの得点はその9倍です。値が大きいほうが有利な作戦であると判断できます。
・結果が収束するためには繰り返し試合を行う必要があります。回数が少ないとばらつきが大きく比較が簡単ではありません。そこで「得点」のボタンを押すと200万回試合を行います。
・「遅/速」のボタンを押すと、球場を模した絵を描き打球の行先とランナーの有無を表示します。しかし描画しながらなので短時間に結果が収束できるほどの試合数を行えません。シミュレーションの様子を確認する場合にお使いください。
・「設定」のボタンを押すごとに以下のように打率とバントをする条件が変わります。
 設定(1):チームの平均打率 = 0.28 ノーアウト・ワンアウトでランナーがいる場合(スクイズもします)
 設定(2):チームの平均打率 = 0.08 ノーアウト・ワンアウトでランナーがいる場合(スクイズもします)
 設定(3):チームの平均打率 = 0.28 ノーアウト一二塁のみ
もちろん、上記条件で常にバントをするわけではなく、決められた確率でバントをします。アウトカウントとランナーの位置によって確率は異なります。
・「表裏」のボタンを押すと以下を切り替えます。先攻と後攻で結果に違いがないかを確認するためです。また、下記3行目の状態を選ぶと両チーム全く同じ条件なので、シミュレーションのばらつきがどれだけあるかを確認できます。気にならないようでしたら初期状態のままにしてください。
 先攻:バントなし 後攻:バントあり
 先攻:バントあり 後攻:バントなし
 先攻:バントあり 後攻:バントあり

複雑なのでボタンについて整理します。

・「遅/速」:球場を模した絵を描き打球の行先とランナーの有無を表示します。押すごとに描画の間隔が遅い/速いを切り替えます。
・「開/止」:押すごとに開始/一時停止を切り替えます。
・「得点」:1イニングあたりの得点のグラフを表示します。絵は表示しません。
・「設定」:上記設定(1)/(2)/(3)を切り替えます。
・「表裏」:「バントあり」「バントなし」チームの先行・後攻を切り替えます。

その他注意していただきたい事項です。

・「得点」ボタンを押してから結果が表示されるまで数秒かかります。進行を示す表示がなく動いているかわかりませんがご了解ください。
・試合回数を多くしていますが、それでも結果はばらつきます。何回か試して傾向を確認ください。
・「設定」と「表裏」を押すとグラフ下の表示に変更が反映されますが「得点」ボタンを押さないとグラフは更新しません。
・なるべく差をわかりやすくするため、グラフの縦軸は0から始まっていません。また、設定によっても縦軸が変わります。

(3)考察1 バントありとバントなしではどちらのほうが高得点か

「設定」のボタンで3通りを選べるようにしましたが、一般的な打率とバントの頻度を想定したのが設定(1)のバントありのチームです。これに対しバントをしないように変えたのが設定(1)のバントなしのチームです。

両者を比較するとどちらのほうが高得点だったでしょうか。

バントなしですね。やはり、と思ったでしょうか、意外だ、と思ったでしょうか。

結果がわかれば理由は想像がつきますね。アウトカウントを増やして1点を取る確率を上げるより、なるべくチャンスを広げたほうがよさそうです。

野球の攻撃はボウリングのストライクのように有利な状況が続くと効率が上がります。つまり、連打をすると得点が増えやすくなります。ヒット2本と犠打1本で1点しか得られないかもしれませんが、犠打がなければヒット3本で2点取れたかもしれません。時々このような違いが生じたのでしょう。

(4)考察2 打率によってはバントが有効ではないか

前述「考察1」ではバントはしないほうがよい、と結論付けましたが、常にそうとも限りません。設定(2)の結果はどうでしょう。

設定(1):
バントなしのほうが高い
設定(2):
バントありのほうが高い

このようになったのではないかと思います。なぜでしょう。

設定(1)と設定(2)の違いは打率です。設定(1)のチーム打率0.28というのはそれほど高くも低くもありません。設定(2)では0.08と極端に低くしています。1試合の得点も1点あるかないか、という状態です。ではなぜ打率が低いと送りバントが有効なのでしょう。

こう考えたらどうでしょう。

打率が高い場合は送りバントをしなくてもランナーを進められる可能性は低くありません。しかし打率が低い場合は連打による進塁は望めません。しかし送りバントであればランナーを進められる確率はかなり高くなります。相対的に送りバントの価値は高いはずです。もちろんアウトカウントは増えるしその後の得点打もあまり期待できませんが、少しだけ得点の確率は上がります。

(5)考察3 ノーアウト一二塁でのみ送りバントをしたらどうか

設定(1)はノーアウトまたはワンアウトでランナーがいるときは送りバントをすることにしていました。スクイズもします。もちろんスクイズの確率は高くなく、ノーアウト一二塁などの状況では送りバントをする確率を高くしています。

ノーアウト一二塁で送りバントをする確率を高くしているのは最も送りバントが有効と思われる条件だからです。一つのアウトで2者を進塁させることができます。一方、満塁だとホームで封殺される可能性があります。

ではノーアウト一二塁のときだけ送りバントをするような場合はどうでしょう。設定(3)は片方のチームはノーアウト一二塁のときだけ送りバントをし、もう一方のチームは送りバントをしません。

いかがでしょう。両チームにあまり大きな差はなかったのではないでしょうか。

設定(1)に比べれば送りバントをするチームの得点力が上がっていることがわかりませいた。しかし、送りバントをしない場合より有利という結論にはなりませんでした。

もちろん、打率や長打率によっては逆転するかもしれません。私が試行錯誤した限りではなかなか顕著な差が出るほどの条件は見つけられませんでしたが、ノーアウト一二塁のときだけ送りバントをするほうが明らかに得点力が高い場合はあるかもしれません。

(6)シミュレーションの有効性

比較的わかりやすい結果が得られましたが、以下の点はご注意ください。

・常に送りバントが不利ということではありません。例えば9回の裏、同点、ワンアウト1塁、次のバッターは2番だった場合はどうでしょう。2番バッターにヒッティングさせて2塁封殺・ダブルプレー・三振などになるよりはワンアウト2塁にして一打サヨナラという状況で3番・4番が打席に立つほうがよいでしょう。そのような、試合の勝敗に関わるような場面限定での是非を示しているものではありません。

・実際には野手の守備位置によって状況が変わることが考えられます。送りバントをされた場合、常にバッターをアウトにできるとは限りません。バントをするかもしれない状況であれば一塁手と三塁手は少し前に出るでしょう。その裏をかいて強打されるかもしれません。そのような可能性は考慮していません。

今回は打率を2通りと、送りバントをする状況を2通り設定し比較しましたが、その他にもパラメーターはたくさんあります。例えば同じ打率でも長打率が高いと、より送りバントの有効性は低くなるかもしれません。これらを変えて試してはいません。

シミュレーションでは200万回という非常に多い試合数を繰り返しました。このようにしたのは得点の差が小さく、回数が少ないと、ばらつきが大きくかったからです。数十試合を繰り返すぐらいであれば、実施するたびに結果が大きく異なり、どちらの得点力が高いかはっきりしません。送りバントの有無が勝敗に大きく結びつくわけではなく、あくまでも期待値に少し違いが出る程度です。

(7)まとめ

シミュレーションより以下の結論が得られました。

・チーム打率が0.28程度であればある程度送りバントをするよりバントを全くしないほうが得点の期待値が大きい。
・チーム打率が0.08程度であればバントを全くしないよりある程度送りバントをするほうが得点の期待値が大きい。
・ノーアウトまたはワンアウトでランナーがいる場合いずれについてもある程度送りバントをするのではなく、ノーアウト一二塁のときだけ送りバントをすると得点の期待値が大きくなる。しかし、送りバントを全くしない場合とどちらがよいかははっきりしない。

ただし前項で述べたように、常にこの関係が成立するわけではありません。

高校野球では投手戦が多いイメージがあります。しかし、実際には1試合での平均得点は4点以上あるようです。これはプロ野球と大差がありません。

長打率の違いはあるでしょう。走塁の巧拙も関係してくるかもしれません。

しかし、それらの違い以上に得点力の差が大きいように思えます。本ページでの結果からは積極的に送りバントをすべきという結論にはなりませんでした。

もちろん、心理的影響は大きいと思います。そもそも教育の一環という目的からすれば単に勝敗だけにこだわるものではないのかもしれません。しかし、あくまでも数値だけを無味乾燥に追えば少し違った結論になりそうです。