特殊相対性理論17(電磁場の変換2)では電磁ポテンシャルより電磁場テンソルを定義し、電磁場の座標変換を導きました。電磁ポテンシャルではなく、ローレンツ力より電磁場テンソルを定義することもできます。本ページではこの方法で電磁場テンソルを定義し、電磁場の座標変換を求めます。
1 電磁場テンソルの定義
1.1 エネルギーと電場・電荷の関係
電場\(\boldsymbol{E}\)、磁場\(\boldsymbol{B}\)が存在する空間において、\(q\)の点電荷が速度\(\boldsymbol{u}\)で移動しているとすると、点電荷が受ける力\(\boldsymbol{F}\)は以下でした。
$$\boldsymbol{F}=q\left(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{B}\right)\tag{1}$$
\(\boldsymbol{F}\)と運動量\(\boldsymbol{p}\)の関係は
$$\boldsymbol{F}=\frac{d\boldsymbol{p}}{dt}\tag{2}$$
なので、
$$\frac{d\boldsymbol{p}}{dt}=q\left(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{B}\right)\tag{3}$$
パワー(仕事率)\(P\)はエネルギー(仕事)\(E\)の時間微分かつ、力の速度の内積なので、
$$P=\frac{d E}{d t}=\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{u}=q\left(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{B}\right)\cdot \boldsymbol{E}\tag{4}$$
※\(P\)と\(\boldsymbol{p}\)、\(E\)と\(\boldsymbol{E}\)を混同しないよう注意してください。
外積\(\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{B}\)は\(\boldsymbol{u}\)と直交するので、両者の内積は\(0\)です。したがって、
$$\frac{d E}{d t}=q\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{u}\tag{5}$$
となります。
1.2 固有時間を使ったエネルギー・パワーと電場・電荷の関係
\( (5) \)と\( (3) \)は単一の座標系上において導いた結果でした。
次に、座標変換に関し不変な関係を求めるため、固有時を用います。観測者が固定されている慣性系の時間\(t\)と固有時\(\tau\)の関係は
$$\frac{d}{dt}=\frac{1}{\gamma}\frac{d}{d\tau}\tag{6}$$
でした。\( (5) \)と\( (3) \)は固有時を用いて、
$$\frac{d E}{d \tau}=\gamma q\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{u}\tag{7}$$
$$\frac{d\boldsymbol{p}}{d\tau}=\gamma q\left(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{B}\right)\tag{8}$$
と表されます。
1.3 電磁場テンソルを4元運動量と4元速度より定義
\( (7) \)と\( (8) \)の\(E\)と\(\boldsymbol{p}\)はスカラーと3次元ベクトルです。これらを4元ベクトルにまとめます。4元運動量は
$$p^{\mu}= \left(\frac{E}{c}, \boldsymbol{p}\right)\tag{9}$$
でした。したがって、
$$\frac {dp^{\mu}}{d\tau}= \gamma q\left(\frac{1}{c} \boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{u},\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u}\times\boldsymbol{B}\right)\tag{10}$$
と表すことができます。
さらに、右辺の\(\boldsymbol{u}\)を4元速度に変えます。4元速度は
$$u^{\mu}=\gamma \left(c, \boldsymbol{u}\right)\tag{11}$$
でした。\( (10) \)の右辺の各成分には\(\gamma \boldsymbol{u}\)があります。これを\(u^{\mu}\)で置き換えることができるはずです。そこで、以下のように表すことができる2階テンソル\(F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)を定義します。
$$\frac{d p^{\mu}}{d\tau}= q F^{\mu}_{\ \ \ \nu}u^{\nu}\tag{12}$$
※\(F\)と\(\boldsymbol{F}\)を混同しないよう注意してください。
\( (10) \)および\( (12) \)の両辺から\(q\)を除くと、
$$F^{\mu}_{\ \ \ \nu}u^{\nu} = \left(\frac{1}{c} \boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{u},\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u}\times\boldsymbol{B}\right)\tag{13}$$
成分ごとに表すと、
(14)
両辺の\(u^1\)から\(u^3\)の係数および定数を比較し、
(15)
となり、\(F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)と電磁場の関係が得られました。この\(F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)が電磁場テンソルです。
\(F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)は1階反変1階共変テンソルですが、反変テンソルは1列目から3列目の符号を反転し、
(16)
共変テンソルはこの1行目から3行目の符号を反転し、
(17)
と表されます。
「特殊相対性理論17(電磁場の変換2)」で、電磁ポテンシャルより電磁場テンソルを定義しましたが、上記テンソルはこれらと一致します。本ページでは初めに\(F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)を1階反変1階共変テンソルとしましたが、このことも前ページの2階反変テンソル・2階共変テンソルの定義と一致します。
2 電磁場の座標変換
前章で導いた電磁場テンソルと電磁場の関係より、電磁場の座標変換を求めます。「特殊相対性理論17(電磁場の変換2)」と同じやり方でもよいのですが、ここでは前章で得られた4元運動量と電磁場テンソルの関係を用いながら計算します。
2.1 電磁場テンソルの座標変換
ローレンツ変換は以下の行列
(18)
を用いて
$$x’^{\mu}=\Lambda x^{\mu} \tag{19}$$
のように表されました。同様に、運動量や速度換も、
$$p’^{\mu}=\Lambda p^{\mu} \tag{20}$$
$$u’^{\mu}=\Lambda u^{\mu} \tag{21}$$
と変換できます。
電磁場テンソルの定義は
$$\frac{d p^{\mu}}{d\tau}=q F^{\mu}_{\ \ \ \nu}u^{\mu} \tag{12}$$
でした。相対性原理の通りであれば、
$$\frac{d p’^{\mu}}{d\tau}=q F’^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}u’^{\mu} \tag{22}$$
が成立するはずです。この関係から、\(F’^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}u’^{\mu}\)が\(\boldsymbol{E}\)、\(\boldsymbol{B}\)を用いてどう表されるかを考えましょう。
\( (22) \)を\(p^{\mu}\)と\(u^{\mu}\)を用いて表すと、
$$\frac{d }{d\tau}\Lambda p^{\mu}=q F’^{\mu}_{\ \ \ \ \nu} \Lambda u^{\mu} \tag{23}$$
両辺の左から\(\Lambda^{-1}\)を掛けると、
$$\Lambda^{-1} \frac{d}{d\tau} \Lambda p^{\mu}=\Lambda^{-1} q F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu} \Lambda u^{\mu} \tag{24}$$
\(\Lambda\)は時間微分によって変化しないので移動し、
$$\Lambda^{-1}\Lambda\frac{dp^{\mu} }{d\tau}=q\Lambda^{-1} F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu} \Lambda u^{\mu}\tag{25}$$
\(\Lambda^{-1}\Lambda\)は逆変換と変換の積なので、
$$\frac{d p^{\mu}}{d\tau}=q \Lambda^{-1} F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu} \Lambda u^{\mu} \tag{26}$$
左辺を\( (12) \)で置き換え両辺の\(q u^{\mu}\)を除くと、
$$F^{\mu}_{\ \ \ \nu} = \Lambda^{-1} F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu} \Lambda \tag{27}$$
両辺の左から\(\Lambda\)、右から\(\Lambda^{-1}\)を掛け、両辺を入れ替え、
$$ F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu}=\Lambda F^{\mu}_{\ \ \ \nu}\Lambda^{-1} \tag{28}$$
となり、電磁場テンソルの座標変換式が得られました。
2.2 電磁場の座標変換
\( (28) \)の右辺を計算すると、
\(\beta\)、\(\gamma\)、\(v\)(系間の相対速度)は、
$$\gamma^2 – \beta^2\gamma^2=\gamma^2\left(1-\beta^2\right)=\frac{1}{1-\beta^2}\left(1-\beta^2\right)=1\tag{29}$$
$$\beta=\frac{v}{c}\tag{30}$$
の関係にあるので、\( (28) \)に\( (29) \)、\( (30) \)を代入し、
(31)
定義より、
(32)
となるはずなので、\( (31) \)と\( (32) \)を比較し、
$$E’_x=E_x\tag{33}$$
$$E’_y=\gamma\left(E_y-vB_z\right)\tag{34}$$
$$E’_z=\gamma\left(E_z+vB_y\right)\tag{35}$$
$$B’_x=B_x\tag{36}$$
$$B’_y=\gamma\left(B_y+\frac{v}{c^2}E_z\right)\tag{37}$$
$$B’_z=\gamma\left(B_z-\frac{v}{c^2}E_y\right)\tag{38}$$
が得られます。
3 まとめ
・ローレンツ力の定義の両辺を固有時で微分すると、
$$\frac {dp^{\mu}}{d\tau}= \gamma q\left(\frac{1}{c} \boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{u},\boldsymbol{E}+\boldsymbol{u}\times\boldsymbol{B}\right)$$
これを
$$\frac{d p^{\mu}}{d\tau}=q F^{\mu}_{\ \ \ \nu}u^{\mu} $$
と定義すると、
の関係が得られます。この\( F^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}\)が電磁場テンソルです。
・前項の4元運動量と電磁場テンソル・4元速度の関係は別の座標系でも成立するはず、つまり
$$\frac{d p’^{\mu}}{d\tau}=q F’^{\mu}_{\ \ \ \ \nu}u’^{\mu} $$
となるはずなので、これを計算していくと、
$$ F^{\prime\mu}_{\ \ \ \ \nu}=\Lambda F^{\mu}_{\ \ \ \nu}\Lambda^{-1} $$
さらに計算を進めると、
これを、
と比較し、
$$E’_x=E_x$$
$$E’_y=\gamma\left(E_y-vB_z\right)$$
$$E’_z=\gamma\left(E_z+vB_y\right)$$
$$B’_x=B_x$$
$$B’_y=\gamma\left(B_y+\frac{v}{c^2}E_z\right)$$
$$B’_z=\gamma\left(B_z-\frac{v}{c^2}E_y\right)$$
が得られます。