なぜ水星から見た太陽の動きは不規則?

投稿者: | 2020年10月10日

(1)惑星から見た太陽は一定の動きをする?

地球から太陽を観察すると、1時間でどれだけ動くでしょうか。24時間で同じ位置に戻ってくるとすると、その軌道の中心からの角度は1時間に 360 / 24 = 15度 変化します。

厳密には等しい角速度で移動するわけではありません(後述)が、ほぼこれで間違いありません。他の惑星から見た太陽も同様に一定の角速度で移動します。

ただし水星は例外です。水星から太陽を観察し続けると、太陽の動きが止まり、わずかですが逆行することがあります。この様子をシミュレーションで確認し、なぜそうなるかを考えてみましょう。

(2)シミュレーション

「始」を押すと開始します。上段が太陽系で、オレンジ色が太陽、緑色が水星です。開始後半周すると水星に黒い点が現れますが、これが観測者だと思ってください。

中段の、濃い青色が背景の図は水星にいる観測者が見ている空です。しばらく経過すると太陽が昇り、沈みます。このときの太陽の動きが地球とは異なることを確認してください。

下段がグラフです。横軸は時間、縦軸は角速度です。青色が水星の自転の角速度、赤色が公転の角速度です。わかりやすくするために、縦軸は角速度の変動範囲のみを拡大しています。つまり、原点は角速度が0ではなく、変動の下限よりやや小さい値を示しています。

自転と公転の角速度の大小関係が一瞬逆転していますね。これが何を意味しているかは次項で説明します。

(3)なぜ一時的に太陽が逆行する?

なぜ水星だけにこのような現象が起きるのでしょう。

直接の原因は自転と公転の角速度が一時的に逆転し、公転の角速度が自転の角速度を上回るからです。

であれば次の二つの疑問が生じます。

・なぜ一時的に公転の角速度が自転の角速度を上回る?

・なぜ公転の角速度が自転の角速度を上回ると太陽が逆行する?

下記(4)と(5)でこれらについて考えましょう。

(4) なぜ一時的に公転の角速度が自転の角速度を上回る?

自転と公転が逆転する理由は以下2点の水星固有の性質によるものです。

(a)自転と公転の角速度の差が小さい
地球の場合、自転の周期は約1日、公転は約365日と大きな差があります。水星の場合、自転の周期が58日と16時間、公転は87日と23時間です。わずか1.5倍の差しかありません。角速度は周期に反比例します。つまり水星の自転と公転の角速度の差は他の惑星に比べて非常に小さいのです。

(b)公転の軌道が離心率の大きい楕円
前述のように、いずれの惑星の公転軌道も完全な円ではなく、楕円です。しかし水星の軌道は極端に扁平な楕円です。楕円の形状は離心率によって表すことができます。離心率が0の図形は円です。この値が大きくなるほど平たくなります。地球の離心率は0.017ですが水星は0.21と大きな値です。

上記(a)は角速度の逆転が起きやすくなる一因ではありますが、これだけでは逆転が起きることを説明できません。しかし(b)によって公転の角速度が変動するのです。ケプラーの法則を思い出してみましょう。惑星は太陽に近いところを通るとき速く移動します。太陽より遠いところではゆっくりと移動します。一方、自転の角速度は一定です。両者の原因が重なり、一時的に自転の角速度を超えるのです。

(5)なぜ公転の角速度が自転の角速度を上回ると太陽が逆行する?

次のシミュレーションを実行してみてください。ボタンがたくさんあります。左から順に以下の動作をします。

自:自転のみする。公転はしない。
公:公転のみする。自転はしない。
自>公:自転も公転もする。自転の角速度のほうが速い。
自<公:自転も公転もする。公転の角速度のほうが速い。
自=公:自転も公転もする。自転と公転の角速度が等しい。

太陽はほとんど静止しているので、もし惑星が公転をせず、自転だけをする場合、惑星から見た太陽は自転とは逆の方向へ動いていきます。

惑星が自転をせず公転のみをする場合も、太陽は公転とは逆の方向へ動いていくようにみえます。

自転も公転もする場合はその角速度の差分によって太陽の動く向きと角速度が決まります。

(6)まとめと補足

・水星は自転と公転の周期が小さく、公転が扁平な楕円を描くため公転の角速度の変動が大きくなります。そのために一時的に公転の角速度が自転の角速度を上回ります。

惑星から見た太陽の動きは自転の公転の角速度の差で決まります。

公転の角速度が自転の角速度を上回ると、水星から見た太陽は逆行します。公転の角速度が自転の角速度を下回ると再び太陽は順行に戻ります。

・水星の自転と公転の周期の比は平均では2:3 です。おおよそではなく正確にこの値になります。これは偶然ではなく、軌道共鳴とよばれる現象の一つです。軌道共鳴とは重力の影響を受け天体の運動が変わることです。水星の場合、長い時間をかけて周期がこのような値に変化しました。このように単純な整数比になる惑星や衛星は他にも存在します。