定義
定義1
\(W_1,W_2\)をベクトル空間\(V\)の部分空間であるとする。全ての\(\boldsymbol{v} \in V\)が\(\boldsymbol{w}_1 \in W_1,\ \boldsymbol{w}_2 \in W_2\)により $$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2$$ と表されるとき、\(V\)を\(W_1\)と\(W_2\)の和(sum)とよび、 $$V=W_1 + W_2$$ と表す。
定義2.1
\(W_1,W_2\)をベクトル空間\(V\)の部分空間であるとする。全ての\(\boldsymbol{v} \in V\)が\(\boldsymbol{w}_1 \in W_1,\ \boldsymbol{w}_2 \in W_2\)により $$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2$$ と一意に表されるとき、\(V\)を\(W_1\)と\(W_2\)の直和(direct sum)とよび、 $$V=W_1 \oplus W_2$$ と表す。
定義2.2
\(W_1,W_2\)をベクトル空間\(V\)の部分空間であるとする。
$$V=W_1+W_2$$ $$W_1\cap W_2 =\{\boldsymbol{0}\}$$
の関係にあるとき、\(V\)を\(W_1\)と\(W_2\)の直和(direct sum)とよび、 $$V=W_1 \oplus W_2$$ と表す。
補足
・定義2.1と定義2.2は同値で、どちらかを満たせば直和です。
・部分空間の和は単に全体空間が部分空間の要素の和によって表すことができることが条件であるのに対し、直和はそれらが一意に表すことができる、あるいは共通部分が\(\{\boldsymbol{0}\}\)であることがさらに条件となります。
・直和には内部直和と外部直和があり、上記は内部直和の定義です。外部直和ついては省略します。
直観的な理解
次のように\(W_1\)と\(W_2\)が\(V=\mathbb{R}^2\)の部分空間で、同じ直線であったとします。
この場合、
$$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2$$
となる\(\boldsymbol{v} \in V, \ \boldsymbol{w}_1 \in W_1, \ \boldsymbol{w}_2 \in W_2\)の組み合わせが無限にあります。
また、\(W_1\cap W_2\)の要素が\(\boldsymbol{0}\)だけではありません。
したがって直和を定義できません。
一方、以下のように\(W_1\)と\(W_2\)が原点でのみ交わる場合は、
直観的には平行四辺形を作図することにより
$$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2$$
が一意に決まり、前提より
$$W_1 \cap W_2 = \{\boldsymbol{0}\}$$
も満たします。
したがってこの場合は直和が定義でき、これは和と同じです。
定理
定理
\(W_1,W_2\)をベクトル空間\(V\)の部分空間であるとする。全ての\(\boldsymbol{v} \in V\)が\(\boldsymbol{w}_1 \in W_1,\ \boldsymbol{w}_2 \in W_2\)により $$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2$$ と一意に表すことができる場合かつその場合に限り、
$$W_1 \cap W_2 = \{\boldsymbol{0}\}$$
が成り立つ。
\(\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2\)が一意に決まる\(\Rightarrow W_1 \cap W_2 = \{\boldsymbol{0}\}\)の証明
\(\boldsymbol{v} \in V, \ \boldsymbol{w}_1 \in W_1, \ \boldsymbol{w}_2 \in W_2,\ \boldsymbol{x} \in W_1 \cap W_2\)とする。
\(\boldsymbol{x} \in W_1 \cap W_2\)より、
$$\boldsymbol{x} \in W_1,\ W_2$$
\(V\)はベクトル空間なので
$$\boldsymbol{0} \in V$$
\(W_2\)はベクトル空間なのでスカラー乗法について閉じており、
$$-\boldsymbol{x} \in W_2$$
以下のように式をたてると、
$$\boldsymbol{0}=\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}$$
これは\(\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2\)に\(\boldsymbol{v}=\boldsymbol{0},\ \boldsymbol{w}_1=\boldsymbol{x},\ \boldsymbol{w}_2=-\boldsymbol{x}\)を代入したと考えることができ、前提より\(\boldsymbol{x}\)は一意に決まる。
\(W_1,\ W_2\)はベクトル空間なので、
$$\boldsymbol{0} \in \ W_1,\ W_2$$
したがって、
$$\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \in W_1 \cap W_2$$
がいえるが、\(\boldsymbol{x}\)は一意に決まるので他に要素はない。以上より、
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\(\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_1+\boldsymbol{w}_2\)が一意に決まる\(\Leftarrow W_1 \cap W_2 = \{\boldsymbol{0}\}\)の証明
\(\boldsymbol{v} \in V,\ \boldsymbol{w}_{1a},\ \boldsymbol{w}_{1b} \in W_1,\ \boldsymbol{w}_{2a},\ \boldsymbol{w}_{2b} \in W_2\)が
$$\boldsymbol{v}=\boldsymbol{w}_{1a}+\boldsymbol{w}_{2a}=\boldsymbol{w}_{1b}+\boldsymbol{w}_{2b}$$
の関係であるとする。
移項し、
$$\boldsymbol{w}_{1a}-\boldsymbol{w}_{1b}=-\boldsymbol{w}_{2a}+\boldsymbol{w}_{2b}$$
\(W_1\)と\(W_2\)はベクトル空間で、加法について閉じているので
$$\boldsymbol{v}’=\boldsymbol{w}_{1a}-\boldsymbol{w}_{1b}=-\boldsymbol{w}_{2a}+\boldsymbol{w}_{2b}$$
とすると、
$$\boldsymbol{v}’\in W_1$$
$$\boldsymbol{v}’\in W_2$$
$$\boldsymbol{v}’\in W_1 \cap W_2$$
したがって、
$$\boldsymbol{w}_{1a}=\boldsymbol{w}_{1b}$$
$$\boldsymbol{w}_{2a}=\boldsymbol{w}_{2b}$$
以上より、
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