数年前、ドライブレコーダーで撮影した信号機が正しく表示されない現象が話題になりました。信号が点灯しているはずなのに、撮影した映像を見ると消灯しているように見えるのです。現在では回避した製品が増えてきましたが、これが重要ではないビデオカメラでは現在も同様の現象がみられる製品が多いと思われます。
(1)なぜこの現象が起きるのか
詳細はぜひ拙著をご覧いただきたいと思いますが、ここでは簡単に現象を説明します。
よく発生する条件は以下(全てが揃った場合)です。
・被写体がLEDを使った信号機(白熱電球ではないもの)であること。
・使用するビデオカメラのフレームレートが30fpsであること。
・撮影場所が西日本であること。
LEDを使った信号機は交流電源の電圧変動に合わせて明るさが変わります。点滅が速いから我々の目には一定の明るさに見えます。しかしビデオカメラは一定の間隔で光を捕えて保持するので、点滅と撮影のタイミングが一致すると、特定の明るさだけが画像として残るのです。つまり点灯のはずが消灯として記録されることがあります。
信号機の周波数(以下周波数)がカメラのフレームレート(以下フレームレート)の整数/2倍になった場合にこれが発生します。その条件に合うのが上記の30fpsと西日本です。西日本の電源の周期は60Hzなので120が30の8/2倍です。
整数/2倍の条件に一致すれば、他の環境でも同様です。例えば東日本(50Hz)で25fpsのカメラを使えば同じ現象が起きます。
いずれの場合も常に消灯となるわけではなく、点灯として撮影されることもあります。どちらになるかはやってみないとわかりません。状態を変えるとすれば、カメラの電源を入れなおすことでしょう。そうすれば周波数は同じでも位相が変わるからです(後述しますが、実際には完全に消灯するとは限らないので少し待てば電源を切らなくても点灯するかもしれません)。
(2)シミュレーション
さて、ここでもシミュレーションをします。お手数ですが、Javascriptを「有効」に変更ください。
下にボタンがあります。いずれかを押す(クリック/タップする)と開始します。上の丸は赤信号の状態を示しています。赤の場合は点灯、黒は消灯です。完全に点灯・消灯いずれでもなくその中間の状態も表示することがあります。
中段は開始直後からの明るさを示しています。横軸は時間、縦軸は明るさ(電圧でもあります)を示しています。真ん中に近いと暗く、上または下にいくほど明るい状態です。
縦線はカメラが光を取り込むタイミングです。その瞬間の画像を小さく線の上にそれぞれ表示しています。
ボタンの50Hz・60Hzは信号機の電源(明るさ)の周波数です。
25fps・30fpsはカメラのフレームレートです。
0deg・90degは位相です。開始時点(0s)で電源の位相が何度であるかを示します。撮影された映像が点滅する場合はあまり重要ではありませんが、例えば60Hz、25fpsの場合は、0degであれば完全に消灯、90degであれば完全に点灯になります。
各行にテキストボックスがありますが、ここで任意の値を入力できます。入力後、右側の単位のボタンを押してください。ただし、周波数は2-120Hz、撮影タイミングは2-120Hz、位相は0-360degを指定してください。
前述のように周波数の2倍がフレームレートの整数倍であった場合に完全に消灯または点灯になります。
例えば周波数が60Hz、フレームレートが30Hzはこの条件にあてはまります。このとき0degで消灯、90degで点灯です。他の値(例えば45deg)にすると明るさが変わりますが、やはり点滅はしません。
点滅と周波数・フレームレートの関係は、全体としては簡単には表現できませんが、部分的には簡単に表せます。完全に点滅しない組み合わせから少しはずれたところだけに注目してみましょう。
図は周波数が60Hz、フレームレートが30fpsを中心として周波数を変えた場合、フレームレートを変えた場合の撮影された信号の周期(周波数ではありません)です。中心では周期を定義できませんが、その前後は、かなりゆっくりとした周期で点滅することがわかります。
例えば周波数を59.5Hz、フレームレートを60Hzとすると1sの周期で点滅するはずです。
これまで、例えば西日本で30fpsのカメラを使うと完全に消灯すると述べてきましたが、実際にはゆっくりと点滅することが多いようです。これは、完全に周波数がフレームレートの整数/2倍でなく、少しずれているからです。
※ シミュレーションではLEDの明るさが(横軸を時間とすると)正弦波を描くよう変化すると仮定し信号を描いています。実際に点滅することは間違いありませんが、正弦波の通りに変化するかどうかを確認したものではありません。