大気圧の差によってサイフォンが動作する?

投稿者: | 2020年5月30日

長らくサイフォンの原理は水面の高低差に起因する水面にかかる大気圧の差によるものと説明されていました。しかし私自身、家族に説明していておかしいことに気づき、しどろもどろになったことがあります。サイフォンの原理に大気圧が関係あるのか、考えてみましょう。

(1)大気圧を無視した場合

まず、大気圧の直接の影響を無視してみます。水面の高さが異なる水槽が管でつながっています。

水槽を無視し、管の、水面より上の部分だけを取り出します。

管の両側の水の高さを比較すると右側の方が高くなっています。

つまり右側のほうが下に流れようとする力が強いことになります。

この力は管の中の水を通して伝達するので相殺し、右側の口から流れようとする力が残ります。

したがって右側の口から流れ出ようとします。

管を水槽を戻します。左側の口は水槽から水を吸い込もうとします。右側の口は水槽に対し水を押し出そうとします。つまり左から右へ水は流れます。

(2)大気圧を考慮すると?

前項のように、大気圧に関係なく水面の高低差によって水は流れます。では大気圧は全く関係ないのでしょうか。

そうとも言い切れません。水面の高さによって大気圧は異なるからです。しかしそれは前項の管の中の圧力差に比べれば非常に小さい値です。したがって、ほとんどは水にかかる重力の差によるものといえます。

(3)大気がないとどうなる?

サイフォンによって水面が高いところから低いところへ水が流れる理由は以上です。ほとんどは水に作用する重力によるものです。

もう少しサイフォンと大気の関係について考えてみましょう。大気がなくてもサイフォンの原理の通り水が流れるでしょうか。

トリチェリの実験を思い出してください。

下の図のように、空中に接する部分がふさがった管の内側を完全に水で充填した場合、最大でどれだけの高さまで可能でしょう。約10mですね。トリチェリは水銀で実験しましたが、水の場合は10mです。

もし、あなたが建物の4階あたりから地面に置かれた水槽に長いストローを入れて吸ったとしましょう。どんな強い力で吸っても水は10mより上へは上がってきません。なぜなら管に水が充填されるのは管の上部から引っ張っているのではなく、水槽の水面が大気によって押されるからです。大気がなければ管の中は水槽の水面より高く上がることはありません。

ということは室内が真空だった場合、管の中の水は水槽の水面より高くなることはないはずです。管全体が水で充填されず、サイフォンの原理の通り水は流れないのでしょうか。

真空だからサイフォンの原理が作用しないとは限りません。次の動画をご覧ください。4:20以降です。真空でのサイフォンの原理を実験しています。4:20以前は実験方法について説明しています。それはそれで興味深いのですが、飛ばしてもよいでしょう。

管を両側のシリンダーの液面より上にしても管の中にすきまはできませんね。そして、大気がある場合と同じようにサイフォンの原理が作用しています。

これはどう考えればよいでしょう。

確かに大気圧は管の中に水を充填する力となります。しかし管に水を留めておく力はそれだけではありません。分子どうしが引き合う力によっても、管の中の水槽より高い位置まで水が持ち上げられると考えられています。

(4)まとめ

・サイフォンの原理の原動力は水面の高低差による水にかかる重力の差である。
・大気圧はサイフォンの原理に直接はほとんど関係しない。
・しかし、管が水で充填されていないと水は流れない。
・大気があれば、高さ約10mまでは大気圧によって管の中は水が充填される。
・しかし室内が真空であっても水の凝集力によってある程度は管の中が真空になることが避けられ、サイフォンの原理は作用する。

大気圧の差によってサイフォンが動作する?」への2件のフィードバック

  1. ヤノ

    配管を水で満たした上で10m以上の高さにした場合は、水は低い水槽へ流れるのでしょうか?

    1. mori.katsu726 投稿作成者

      ヤノ様
      盛本成勝です。

      ご質問ありがとうございます。
      回答が遅くなり申し訳ありません。

      管の高さが10m以上あるようなサイフォンを設け、管の中に水を満たした場合、水が高い
      側から低い側へ流れるか、というご質問について回答いたします。

      まず、ご存じの通りかと思いますが、以下ご了解ください。
      管の中の水位を上げているのは吸い上げる力ではなく、管の下から押す力です。
      管の水を押す力の元となっているのは水槽の水面を押す大気です。
      これが管の太さや水槽の表面積に関係なく10m押し上げます。
      もし水が蒸発しないのであれば10m以上の部分は真空になります。
      実際には気圧がないため水蒸気が発生し充填されます。
      ただし、管の中が水で充填されていた場合は、水が管両端の力の差を伝達する媒体
      となります。
      もし高低差があれば水は流れます。
      これがサイフォンの原理です。

      さて、なんらかの方法で人工的に管に水を管全体に充填させたとしたとしたらどう
      なるか、ということが主旨かと思います。
      私の想像力がおよばず大変申し訳ありませんが、その方法が思い浮かびません。
      ただし、以下のようなことは言えます。
      通常、大気圧はおよそ1気圧で、その圧力が持ち上げることのできる水の高さが
      10mです。
      例えば、室内を2気圧にすれば水は20mまで上げることが可能になります。
      サイフォンの管の高さが12mであれば管の中を水で充填することができます。
      これであれば水は高い側から低い側へ流れます。

      では水が充填された状態で気圧を1気圧に戻すとどうなるでしょう。
      その時点で管の両側の水位が10mになるまで水槽に水が戻り10mより上は水蒸気で満
      たされます。
      サイフォンの原理のように水槽の水位が高い側から低い側へ流れることはなくなり
      ます。

      補足ですが、管に水を満たす力は大気圧だけではありません。
      私のサイトにも記載しましたが、水の分子の凝集力によっても管に水が満たされる
      場合もあります。
      申し訳ありませんが、それがどのような条件なのか、具体的な数値はわかりません。
      抽象的ですが、管の高さが10mをわずかに上回る程度であれば水は凝集力によって
      管の中を満たした状態を保つように思います。

      回答になっていますでしょうか。
      もしご不明な点がありましたらなんでも結構ですので連絡いただけますでしょうか。

      繰り返しになりますが、回答が遅くなり申し訳ございません。
      Webサイトの運営に慣れておらず、ヤノ様のご質問に気づくのが遅れました。

      これからもよろしくお願いします。

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