線形代数 – 三角行列

投稿者: | 2023年12月18日

定義

対角成分より上の成分が\(0\)である正方行列を三角行列(upper triangular matrix)、対角成分より下の成分が\(0\)である行列を三角行列(lower triangular matrix)とよぶ。


 

定理1

上三角行列と上三角行列の積は上三角行列、下三角行列と下三角行列の積は下三角行列になる。

証明

\(A\)、\(B\)を上三角行列、\(C=AB\)とする。

\(i>j\)のとき、

\begin{align}
c_{ij}&=\sum_{k=1}^{n}a_{ik}b_{k_j}\\
&=\sum_{k=1}^{i-1}a_{ik}b_{kj}+\sum_{k=i}^{n}a_{ik}b_{kj}\\
&=\sum_{k=1}^{i-1}0\cdot b_{kj}+\sum_{k=i}^{n}a_{ik}\cdot 0\\
&=0
\end{align}

より\(C\)は上三角行列となる。

下三角行列も同様。

補足

下の図は例として\((2,3)\)成分となる積を色で表しています。

赤で囲った成分は上の式第\(2\)行第\(1\)項、紫色は第\(2\)項です。

緑色の部分のように\(C\)の成分が\(0\)とは限らないところがあります。

\(i \le j\)つまり\(C\)の対角成分または対角成分より上となる成分について同様のことがいえます。

次の図は\((3,2)\)成分の場合です。

\(A\)または\(B\)どちらかが必ず\(0\)なので\(C\)の成分は\(0\)です。

\(i > j\)つまり\(C\)の対角成分より下となる成分について同様のことがいえます。

定理2

上三角行列と上三角行列の積の対角成分はそれぞれの上三角行列の対角成分の積と等しい。下三角行列についても同様。

証明

\(A\)、\(B\)を上三角行列、\(C=AB\)とする。

\begin{align}
c_{ii}&=\sum_{k=1}^{n}a_{ik}b_{k_i}\\
&=\sum_{k=1}^{i-1}a_{ik}b_{ki}+\sum_{k=i}^{i}a_{ik}b_{ki}+\sum_{k=i+1}^{n}a_{ik}b_{ki}\\
&=\sum_{k=1}^{i-1}0\cdot b_{ki}+\sum_{k=i}^{i}a_{ik}b_{ki}+\sum_{k=i+1}^{n}a_{ik}\cdot 0\\
&=\sum_{k=i}^{i}a_{ik}b_{ki}\\
&=a_{ii}b_{ii}\\
\end{align}

より、\(C\)の対角成分は\(A\)と\(B\)の対角成分の積となる。

補足

対角成分以外は\(A\)、\(B\)どちらかの成分が必ず\(0\)なので対角成分だけが残ります。

定理3

上三角行列の行列式は行列の対角成分の積で表される。

証明

上三角行列を\(A\)、\(A\)の第\(1\)行から第\(i-1\)行と第\(1\)列から第\(i-1\)列までを除いた行列を\(B_i\)とし、\(A\)について\(B_1,B_2,\cdots,B_{n-1}\)の順にそれぞれ第\(1\)列に沿って余因子展開をすると、

\begin{align}
\mathrm{det}(A)&=a_{11}\mathrm{det}(B_1)\\
&=a_{11}a_{22}\mathrm{det}(B_2)\\
&=a_{11}a_{22}\cdots a_{n-1\, n-1}\mathrm{det}(B_{n-1})\\
&=a_{11}a_{22}\cdots a_{n-1\, n-1}a_{nn}
\end{align}

より、対角成分の積となる。

補足

\(4\times 4\)の行列について考えてみます。

\(A\)について第\(1\)列に沿って余因子展開をすると、

\((2,1)\)、\((3,1)\)、\((4,1)\)成分は\(0\)なので係数が\(a_{11}\)の項のみとなります。

 

同じように\(3\times 3\)の行列式を余因子展開をすると\(a_{22}\)が係数になります。

 

同様に、

行列式は対角成分の積となりました。

定理4

上三角行列の逆行列は上三角行列、下三角行列の逆行列は下三角行列になる。

証明1

上三角行列\(A\)の\((i,j)\)小行列を\(A_{ij}\)、その\((k,l)\)成分を\(A_{ij,kl}\)とする。

\(i<j\)の場合について対角成分を考える。

\(k<i\)の場合、

$$A_{ij,kk}=a_{kk}$$

\(i \le k \le j\)の場合、

$$A_{ij,kk}=0$$

\(j<k\)の場合、

$$A_{ij,kk}=a_{kk}$$

\(A_{ij}\)の対角成分に\(0\)が含まれるので、

$$\mathrm{det}(A_{ij})=0$$

したがって\(A^{-1}\)の\((j,i)\)成分は\(0\)となる。\(i<j\)における\((j,i)\)成分は対角成分より下であるので\(A^{-1}\)は上三角行列である。

補足

例として\(6\times 6\)の行列\(A\)の\((2,5)\)余因子\(\tilde{a}_{25}\)について考えてみます。

\(\tilde{a}_{25}\)は\(A\)の\((2,5)\)小行列の行列式です。この小行列は図のように\(A\)の第\(3\)行以下を上へ、第\(6\)列を左へ詰めた行列と考えることができます。

詰めたことによって、その小行列の対角成分には以下のように値が\(0\)となるところが生じます。

対角成分に\(0\)がある上三角行列なので、この小行列式すなわち余因子\(\tilde{a}_{25}\)は\(0\)です。

\(A^{-1}\)の\((5,2)\)成分は\(\tilde{a}_{25}\)を\(\mathrm{det}(A)\)で割った値なので\(0\)です。逆行列の\((j,i)\)成分と\(\tilde{a}_{ij}\)が対応するという点、つまり対角線に関して対称な位置にある点に注意してください。

同じことが\(A\)の対角成分より上の成分全てについていえるので、逆行列は上三角行列です。

ちなみに、\(A\)に逆行列が存在するのであれば\(A^{-1}\)にも逆行列が存在するので、\(A^{-1}\)の対角成分の積は\(0\)ではありません。

また、例えば\(A\)の\((5,2)\)小行列は以下のようになります。上三角行列にするためには列基本変形が必要ですが、いずれにしても必ず小行列式が\(0\)になるとはいえません。\(A\)の対角線より上の成分全てについて同様のことがいえます。

 

証明2

以下のように掃き出し法を用いて上三角行列の逆行列を求める。

第\(n\)行を定数倍して他の行に加えることにより第\(n\)列の対角線より上の成分を\(0\)にする

同様に他の列の対角より上を\(0\)にする

各行を対角成分の値で割って対角成分を\(1\)にする

以上、逆行列は上三角行列となる。

定理5

\(A=(a_{ij})\)を上三角行列または下三角行列とすると、\(A^{-1}\)の\((i,i)\)成分は\(1/a_{ii}\)となる。

証明

\(A\)を上三角行列または下三角行列とする。逆行列との積は、

$$A^{-1}A=I$$

定理2より\(A^{-1}A\)の\((i,i)\)成分(\(i=1,2,\cdots ,n\))は\(A^{\prime}\)と\(A\)の\((i,i)\)成分の積なので、\(A^{-1}=(a^{\prime}_{ij})\)とすると、

$$a^{\prime}_{ii}a_{ii}=1$$

したがって、

$$a^{\prime}_{ii}=\frac{1}{a_{ii}}$$