線形代数 – 余因子展開

投稿者: | 2023年12月5日

定理

\(n \times n\)の行列\(A\)の行列式は任意の\(k \in (1,2,\cdots,n)\)により以下のように表される。

$$\mathrm{det} (A) = \sum_{j=1}^n a_{kj} \tilde{a}_{kj}$$ $$\mathrm{det} (A) = \sum_{i=1}^n a_{ik} \tilde{a}_{ik}$$

\(\in\)は記号の左側の要素が右側の集合に含まれるという意味です。\(\tilde{a}_{kj}\)は余因子です。

\(2\)式どちらで計算しても同じように行列式が得られます。また、\(k\)が\(1\)から\(n\)までのどの値であってもやはり結果は同じです。

例えば\(1\)番目の式において\(k=1\)とした場合、「第\(1\)行に沿って余因子展開をする」「第\(1\)行について余因子展開を行う」などのようにいいます。

証明

\(A\)を\(n\times n\)の行列、\(M_{ij}\)を\(A\)の\((i,j)\)小行列式とする。また\(B_{ij}\)を、\(A\)の\((i,j)\)成分を\(a_{ij}\)、第\(i\)行の他の成分を全て\(0\)に変えた行列とする。

第\(1\)行に沿って余因子展開を行う場合を考える。行列式の多重線形性より、

$$\mathrm{det}(A)=\sum_{j=1}^n \mathrm{det}(B_{1j}) $$

右辺の\(j=1\)の項は行列式の定義より、

$$\mathrm{det}(B_{11})=a_{11}M_{11}$$

\(j \ge 2\)の項を求めるため、第\(j\)列を\(1\)列目に移動し、元の第\(1\)列から第\(j-1\)列をそれぞれ\(1\)列ずつ右へ移動した行列を考える。行列式の交代性より、

$$\mathrm{det}(B_{1j})=(-1)^{j+1} a_{1j} M_{1j}$$

これらの総和は、

\begin{align}
\mathrm{det}(A)&=\sum_{j=1}^n \mathrm{det}(B_{1j}) \\
&=\sum_{j=1}^n (-1)^{j+1} a_{1j} M_{1j}
\end{align}

以上、第\(1\)行に沿って余因子展開を行った場合について示すことができた。第\(i\)行の場合、行列式の交代性により、

\begin{align}
\mathrm{det}(A) &=\sum_{j=1}^n (-1)^{i+j} a_{ij} M_{ij}\\
&=\sum_{j=1}^n a_{ij}\tilde{a}_{ij}
\end{align}

列に沿って余因子展開をする場合も同様。

補足

\(4 \times 4\)の行列について考えてみます。

多重線形性とは、ある行(列)の各成分が複数の数の和で表されている場合、それらを分離した行列式の和で表すことができるという性質でした。

第\(1\)列が\((a_{11},a_{12},a_{13},a_{14})\)である場合、これを\((a_{11},0,0,0)\)と\((0,a_{12},a_{13},a_{14})\)の和と考えれば\(2\)つの行列式に分離できます。さらに後者を\((0,a_{12},0,0)\)と\((0,0,a_{13},a_{14})\)の和というように考えて分離していけば以下のように\(\mathrm{det}(A)\)は\(4\)つの行列式の和になります。

行列式の定義によれば、各項に必ず全ての行と列から\(1\)つの成分だけが現れるのでした。いずれの項も第\(1\)行は\(1\)つの項を除き全て\(0\)になっています。したがって\(a_{11}\)などが存在する列は他の行の成分\(0\)であると考えることができます。

第\(2\)行以降の緑色の部分の小行列式を\(M_{11}\)(第\(1\)項の場合)などとします。後で使用します。

下の図のように列を交換し\(a_{12}\)などが存在する列を第\(1\)列に移動します。

行列式の交換性により、列を入れ替えるごとに符号が反転します。第\(2\)項と第\(4\)項は奇数回入れ替えるので負になります。

行列式の定義より、例えば第\(1\)項は\((1,1)\)成分と\((1,1)\)小行列式の積で表されるはずです。確認してみましょう。

\begin{align}
\color{white}{=}&\color{white}{-}a_{11}a_{22}a_{33}a_{44}+a_{11}a_{23}a_{34}a_{42}+a_{11}a_{24}a_{32}a_{43}\\
&-a_{11}a_{24}a_{33}a_{42}-a_{11}a_{23}a_{32}a_{44}-a_{11}a_{22}a_{34}a_{44}\\
=&\color{white}{-}a_{11}(a_{22}a_{33}a_{44}+a_{23}a_{34}a_{42}+a_{24}a_{32}a_{43}\\
&\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ -a_{24}a_{33}a_{42}-a_{23}a_{32}a_{44}-a_{22}a_{34}a_{44})\\
\end{align}
括弧内は\((1,1)\)小行列式なのでやはり\((1,1)\)成分と\((1,1)\)小行列式の積になりました。他の項も同様なので

小行列式を使って表すと、

$$(-1)^2 a_{11}M_{11}-(-1)^3 a_{12}M_{12}+(-1)^4 a_{13}M_{13}+(-1)^5 a_{14}M_{14}$$

\(\sum\)を使うと、

$$\sum_{j=1}^4 (-1)^{1+j}a_{1j}M_{1j}\tag{1}$$

となります。

以上は第\(1\)行に沿って余因子展開をした場合でした。第\(1\)行以外の場合、行を交換することによって上記と同じように展開をできます。

たとえば第\(2\)行に沿って余因子展開をする場合について考えてみます。

同じように多重線形性により行列式を分けます。

第\(1\)行の場合には不要でしたが、第\(1\)行以外の場合は行を交換して第\(1\)行へ移動します。

行列式の交代性により、交換するごとに符号が変わります。この場合は\(1\)回なので負になります。

あとは第\(1\)行の場合と同じです。

\((1)\)は第\(1\)行についての式でしたが、これをを第\(i\)行の場合に改めると、

$$\sum_{j=1}^4 (-1)^{i+j}a_{ijM_{ij}}$$

\((-1)^{i+j}M_{ij}=\tilde{a}_{ij}\)より、

$$\sum_{j=1}^4 a_{ij}\tilde{a}_{ij}$$

となります。

以下は\(3 \times 3\)行列の行列式の計算例です。小行列式はたすき掛けにより計算しています。

次は\(4 \times 4\)行列の行列式の例です。小行列式はサラスの公式を使用しています。