本ページでは\(E\)を基本行列、\(I\)を単位行列として表しています。
定義1
\(m \times n\)の行列に対する行基本変形は\(m \times m\)の基本行列を左から掛けることにより表すことができる。行基本変形に対応する基本行列は以下の通り。
\(1.\ \ \) \(2\)行を入れ替える場合
\(2.\ \ \) ある行を定数倍する場合
\(3.\ \ \) ある行を定数倍し別の行に加える場合
※行列の中で空白になっている成分は\(0\)。例
\(1.\ \ \) \(2\)つの行を入れ替える場合
\(2.\ \ \)ある行を定数倍する場合
\(3.\ \ \)ある行を定数倍し別の定数に加える場合
定理1
全ての基本行列は正則である。
証明
行基本変形はいずれも逆の変形が可能であり、これらも基本行列である。ある基本行列を\(E\)、その逆の変形を行う基本行列を\(F\)とすると、
$$FE=I$$
と表すことができる。したがって、
$$F=E^{-1}$$
∎
補足
※正則とは逆行列をもつという意味です。
さて、行基本変形の逆の変形とは以下の操作のことです。
第\(i\)行と第\(j\)行を入れ替える→第\(i\)行と第\(j\)行を入れ替える
第\(i\)行を\(c\)倍する→第\(i\)行を\(1/c\)倍する
第\(i\)行を\(c\)倍して第\(j\)行に加える→第\(i\)行を\(-c\)倍して第\(j\)行に加える
行基本変形の後でこれらの逆の変形を行うと元に戻ることは明らかです。
したがって逆の変形をする基本行列を\(F\)とすると、
$$FE=I$$
と表すことができます。
これより\(F\)が\(E\)の逆行列であることがわかります。
定理2
\(A\)を任意の正方行列、\(E\)を基本行列とすると、 $$\mathrm{det}(EA)=\mathrm{det}(E)\mathrm{det}(A)$$
証明
\( 1. \ \ \)\(2\)行を入れ替える場合
\(E\)は\(I\)、\(EA\)は\(A\)の\(2\)行を入れ替えた行列なので、行列式の交代性より、
$$\mathrm{det}(E) = -1 \mathrm{det} (I) = -1$$
$$ \mathrm{det}(EA) = -\mathrm{det}(A)$$
したがって、
$$\mathrm{det} (EA)=\mathrm{det}(E)\mathrm{det}(A)$$
\( 2.\ \ \)ある行を定数倍する場合(定数を\(c\)とする)
\(E\)は\(I\)、\(EA\)は\(A\)のある行を\(c\)倍した行列なので、多重線形性より、
$$\mathrm{det}(E) = c \mathrm{det} (I) = c$$
$$\mathrm{det} (EA)=c \mathrm{det}(A)$$
したがって、
$$\mathrm{det} (EA)=\mathrm{det}(E)\mathrm{det}(A)$$
\( 3.\ \ \)ある行を定数倍し別の行に加える場合(定数を\(c\)とする)
\(E\)は\(I\)、\(EA\)は\(A\)のある行を\(c\)倍しそれぞれの別の行に加えた行列なので、多重線形性より、
$$\mathrm{det}(E) = \mathrm{det} (I) = 1$$
$$\mathrm{det} (EA)= \mathrm{det}(A)$$
したがって、
$$\mathrm{det} (EA)=\mathrm{det}(E)\mathrm{det}(A)$$
∎
補足
別ページで行列式の交代性の証明のために本定理を利用しているところがありますが、循環論法となることを避けるためには行列式の交代性または上記\(1.\)を余因子行列などを使った別の証明にする必要があります(行列式の交代性)。
定理3
\(m \times n\)の行列に対する列基本変形は\(n \times n\)の基本行列を右から掛けることにより表すことができる。
例
\(1.\ \ 2\)列を入れ替える場合
\(2.\ \ \)ある列を定数倍する場合
\(3.\ \ \)ある列を定数倍し別の列に加える場合
補足
右から基本行列を掛けることによる列基本変形は、転置をすることにより左から基本行列を掛ける行基本変形と同一と考えることができます。
転置をするとどうなるか、考えてみましょう。
変形前の行列を\(A\)、列基本変形のための基本行列を\(E\)、変形後の行列を\(B\)とすると、
$$B=AE$$
の関係にあります。両辺を転置すると、
$$B^T=(AE)^T=E^TA^T$$
なのでやはり、両者は転置の関係にあることがわかります。
例えば上記\(3.\)の例は、転置をすると、
となります。これはまさに本ページ冒頭で示した行基本変形です。
定理4
正則行列は基本行列の積で表すことができる。
証明
\(A\)が正則行列、\(E_1,E_2,\cdots,E_k\)が基本行列、\(R\)が行簡約階段形で、以下の関係にあるとする。
$$R=E_k E_{k-1} \cdots E_1 A$$
\(E=E_k E_{k-1} \cdots E_1\)とすると、
$$R=E A$$
もし\(R\)が単位行列であったとすると、
$$I=EA$$
$$E^{-1}=A$$
より、\(A\)は正則である。
もし\(R\)が単位行列でないとすると、\(R\)には成分の全てが\(0\)である行が存在する。その場合、\(R\)の行列式は\(0\)であり\(R\)は正則ではない。
以上より、\(A\)が正則行列であるなら、
$$I=E_k E_{k-1} \cdots E_1 A$$
$$A=E^{-1}_{1} E^{-1}_{2} \cdots E^{-1}_{n}$$
■
補足
定理1の通り、全ての行列は行基本操作の組み合わせにより行簡約階段形にすることができます。
\(R\)は正方行列であるので、\(R\)の全ての行に主成分があるとすると、\(R\)の主成分は全て対角にあるはずです。したがって\(R\)は単位行列になります。基本行列は正則なのでその積である\(E\)も正則で、さらに\(E^{-1}\)も正則です。証明にあるように、
$$E^{-1}=A$$
と表されるのであれば\(A\)も正則です。
\(R\)の全ての行に主成分があるわけではない、つまり全ての成分が\(0\)である行があるのであれば、行列式は\(0\)です。
$$E^{-1}R=A$$
の両辺の行列式は
$$\mathrm{det}(E^{-1}R)=\mathrm{det}(E^{-1})\mathrm{det}(R)=0=\mathrm{det}(A)$$
であるので\(A\)は非正則です。
以上より、\(A\)が正則であるなら、
$$A=E^{-1}_{1} E^{-1}_{2} \cdots E^{-1}_{n}$$
と表されることがわかりました。行基本変形の逆も行基本変形なので\(E^{-1}_{1},E^{-1}_{2},\cdots,E^{-1}_{n}\)も基本行列です。