定理1
正則行列\(A\)のある行を\(c\)倍した行列を\(A’\)すると以下が成り立つ。
$$\mathrm{det}(A’)=c\mathrm(A)$$
列についても同様。
証明
行列式の定義より以下の通り成り立つ。
\begin{align}
\mathrm{det}(A’) &= \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots (ca_{i\sigma(i)}) \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ c\sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ c\ \mathrm {det}(A)
\end{align}
■
補足
\(4 \times 4\)の行列の第\(2\)行が\(c\)倍になった場合について考えてみます。例えば、行列式に含まれる\(a_{12}(ca_{21})a_{34}a_{43}\)という項は\(a_{12}a_{21}a_{34}a_{43}\)の\(c\)倍であると考えることができます。
この項だけではなく、行列式の全ての項には必ず第\(2\)行の成分が\(1\)つ含まれます。それらはいずれも\(c\)が存在するので行列式も\(c\)倍になります。
列についても確認しましょう。
\(D\)のある列を\(c\)倍した行列を\(D’\)とし、以下のように対応させます。
$$D=A^T$$
$$D’=(A’)^T$$
行列式は、
\begin{align}
\mathrm{det}(D’)=\mathrm{det}((A’)^T)=\mathrm{det}(A’)=c\mathrm{det}(A)=c\mathrm{det}(A^T)=c\mathrm{det}(D)
\end{align}
と、やはり行の場合と同じような性質があることが確認できます。
定理2
正則行列\(A\)の第\(i\)行を\(\boldsymbol{a}_i\)とする。これを\(\boldsymbol{b}_i\)に変えた行列を\(B\)、\(\boldsymbol{a}_i+\boldsymbol{b}_i\)に変えた行列を\(A’\)とすると以下が成り立つ。 $$\mathrm{det}(A’)=\mathrm{det}(A)+\mathrm{det}(B)$$
列についても同様。
証明
行列式の定義より以下の通り成り立つ。
\begin{align}
\mathrm{det} (A’) &=\ \ \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots (a_{i\sigma(i)}+b_{i\sigma(i)}) \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&\ \ \ +\sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots b_{i\sigma(i)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ \mathrm {det}(A) + \mathrm{det} (B)
\end{align}
■
補足
\(4 \times 4\)の行列について考えてみます。
行列式に含まれる\(a_{12}(a_{21}+b_{21})a_{34}a_{43}\)は、
$$a_{12}(a_{21}+b_{21})a_{34}a_{43}=a_{12}a_{21}a_{34}a_{43}+a_{12}b_{21}a_{34}a_{43}$$
と、分解することができます。
この項に限らず、全ての項に必ず第\(2\)行の成分が\(1\)つ含まれまるので、それらも同じように分配法則によって変形することができるのでこの関係が成り立つことがわかります。
列については定理1の補足に述べた内容と同様の対応により行と同じ性質があることが確認できます。
定理3
正則行列\(A\)の第\(i\)行の定数倍を第\(j\)行に足した行列を\(A’\)とすると以下が成り立つ。 $$\mathrm{det}(A’)=\mathrm{det}A$$
列についても同様。
証明
上記定数を\(c\)とすると、行列式の定義より以下の通り成り立つ。
\begin{align}
\mathrm{det} (A’) &=\ \ \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots (a_{j \sigma(j)} + c a_{i\sigma(i)}) \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots a_{j\sigma(j)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&\ \ \ +\sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots c a_{i\sigma(i)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ \sum_{\sigma \in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{i\sigma(i)} \cdots a_{j\sigma(j)} \cdots a_{n\sigma(n)}\\
&=\ \ \mathrm {det}(A)
\end{align}
■
補足
左辺第\(i\)行が和で表されているのでこれを\(2\)つの行列の和にすると、
となります。右辺第\(2\)項第\(j\)行の各成分に\(c\)があるのでこれを外に移動し、
右辺第\(2\)項の第\(i\)行と第\(j\)行が同じなので消え、
となり、ある行の定数倍を別の行に加えても行列式は変わりませんでした。
定理2と似ていますが何が違うのでしょう。
行列のある\(1\)行が別の行との和で表されるという点で両者は共通です。しかし定理2の場合は別の行列にある行を加えるのに対し、この定理の場合、同一行列にある行(の定数倍)であるという点が異なります。そのため、右辺第\(2\)項には同じ行の成分があるために消えます。
定理1同様、列についても容易に確認できます。