スイングバイという技術をご存じでしょうか。
地球から打ち上げた後の宇宙機は一定の速度で航行するわけではありません。減速したり、逆に加速したりします。これらを制御するためには大量の推進力が必要となります。
しかし、すべてを燃料でまかなう必要はありません。エネルギーを補う方法があります。何のエネルギーを使うのでしょう。惑星(や衛星)の運動エネルギーです。惑星は公転しています。そのエネルギーを宇宙機が利用するのです。
これがスイングバイです。
下にあるのがシミュレーションです。「止」のボタンを押してみてください。青い丸が惑星、オレンジ色が宇宙機です。宇宙機が惑星の近くを通り過ぎ、離れていきます。
右のグラフは横軸が時間、縦軸が速度です。惑星に近づくにつれ速度は大きくなりますが離れると速度は小さくなります。近づく前と通り過ぎた後で角度を変えることはできますが、速度の大きさを変えることはできません。
では「加」のボタンを押してみてください。惑星は宇宙機が離れていく方向と近い方向へ進んでいます。このような場合、宇宙機は惑星に近づく前に比べて、離れた後で速度は大きくなっています。つまり宇宙機は加速しています。
「減」のボタンを押してみてください。今度は逆に惑星は宇宙機が離れる方向とは逆に動いています。このような場合、宇宙機の速度は小さくなります。
つまり、惑星が動いていない場合は宇宙機は加速も減速もしないが、惑星が動いていると宇宙機は加速する場合も減速する場合もあります。
スイングバイは英語ではgravity assistまたはgravitational slingshotとよばれます。slingshotとはY字型の木などにゴム紐をつけ、石を飛ばすものです。惑星に引っ張られて宇宙機が加速するイメージなのでしょう。
宇宙機は惑星の動きに引っ張られて速度を変えているのでしょうか。これを理解する近道は惑星を基準として宇宙機の速度がどう変化するかを考えることです。
惑星が動いているということは観測者は太陽や地球を基準として、つまり太陽や地球が止まって見える状態で惑星を見ているからです。。そうではなく、惑星を基準として宇宙機を見たらどうでしょう。上のシミュレーションでいうと「止」のときの動きになるはずです。近づく時の速度と遠ざかるときの速度は同じです。
基準を太陽や地球に戻してみると、宇宙機が近づくときと離れるときの速度に差が生じます。
この動きについては拙著で補足として説明していますのでよければご覧ください。