線形代数 – 行列式の定義

投稿者: | 2023年8月31日

定義

\(A\)が正方行列である場合、以下を行列式という。

$$\mathrm{det}(A)=\sum_{s\in S} \mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}$$

1 定義の説明

\(\mathrm{det}(A)\)ではなく、\(|A|\)と表す場合もあります。

正方行列とは行と列の数が同じ行列のことです。正方行列でない場合についての定義も可能ですがここでは正方行列のみについて述べます。

行列が複数の数の集まりであるのに対し、行列式は\(1\)つの数、つまりスカラーである点に注意してください

\(\sigma\)

定義の中の\(\sigma\)は置換の数を示しています。\(1\)から\(n\)までの数(要素)を順に並べ、それを並べ替え元の要素と\(1\)対\(1\)で対応させたものです。

例えば\(n\)が\(5\)であったとします。

これを並べ替えたものを下に追加します。

これが置換の例です。次の図のような対応を意味しています。

\(\sigma\)は置換後の要素を表しています。つまりこのように書くことと同じです。

\(\mathrm{sgn}\)

定義の中の\(\mathrm{sgn}\)は符号、つまり\(1\)または\(-1\)です。どちらになるかは\(\sigma\)が偶置換奇置換かによって以下のように決まります。

偶置換:\(+1\)
奇置換:\(-1\)

偶置換と奇置換は互換がどれだけあるかによって決まります。互換とは\(2\)つの要素を入れ替えることです。例えば、以下のような置換があったとします。

\(1\)と\(2\)、\(4\)と\(5\)の互換と考えることができます。

この\(2\)行で書かれている置換を以下のように互換の組み合わせによって表すこともできます。

互換の数は\(2\)つまり偶数なので偶置換です。

では次の場合は互換によって表すことができるでしょうか。

元の要素\(1\)、\(2\)、\(3\)が玉突きのように入れ替わっています(巡回置換とよびます)。そこでまず\(1\)と\(3\)を入れ替えます。

次に\(1\)と\(2\)の要素を入れ替えます。

\(2\)つの互換で表すことができました。

互換の数が偶数なので偶置換です。入れ替えに順序がある場合は左から表します。

互換の表し方は\(1\)通りではありません。互換の数も同一というわけではありません。ただし、どの表し方であっても偶奇は変わりません。

\(\displaystyle \sum\)

次に\(\displaystyle \sum\)の意味についてです。

\(S_n\)は置換全ての集合です。

\(\in\)は属することを示します。

したがって\(\displaystyle \sum_{\sigma \in S_n}\)は置換全てについて和を求めるという意味です。

置換は並べ替えである、と述べましたが、これは順列そのものです。\(n\)個の要素があると、場合の数は\(n!\)です。したがって項の数も\(n!\)です。

補足

定義では各項で第\(1\)行から第\(n\)行まで、全ての行が現れます。列は置換によって変わりますが、\(1\)から\(n\)までの並べ替えなのでやはり\(1\)から\(n\)までが現れます。

つまり、各項で必ず全ての行・列の成分が\(1\)つだけ含まれると考えることができます。

2 例

\(2 \times 2\)の行列

\(2 \times 2\)の行列の場合、項は\(2!=2\)個しかありません。下の図はその\(2\)個について、行列式に含まれる成分の色を変えて表示しています。ベージュ色は正、水色は負の場合です。

$$\mathrm{det}(A)=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}$$

左の項は互換の数が\(0\)なので偶置換、右の項は互換の数が\(1\)なので奇置換です。

授業で以下のようなたすき掛けとして教わった人も多いと思いますが、この式と一致します。

$$\mathrm{det}(A)=ad-bc$$

\(3 \times 3\)の行列

\(3\)次正方行列の場合は\(3!=6\)通りあるので少し複雑になります。前節と同じように、全ての行・列が\(1\)度だけ現れる組み合わせを選び、符号をつけ、総和を求めます。

詳細は省略しますが、ベージュ色のところでは互換の数が\(0\)または\(2\)、水色のところでは互換の数が\(1\)または\(3\)です。

\(3 \times 3\)の行列の場合はサラスの公式があります。成分のつながりがどちらを向いているかによって符号が決まるのでわかりやすいかもしれません。

\begin{align}
\mathrm{det}(A)&=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}\\
&-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{12}a_{21}a_{33}-a_{11}a_{23}a_{32}
\end{align}

\(4 \times 4\)の行列

\(4\times 4\)の行列では項の数が\(4!=24\)個と、急に多くなります。

\begin{align} 
\mathrm{det}(A)\\
\hspace{-7pt}=&\hspace{12pt}a_{11}a_{22}a_{33}a_{44}-a_{11}a_{22}a_{34}a_{43}-a_{11}a_{23}a_{32}a_{44}\\
\hspace{-15pt}&+a_{11}a_{23}a_{34}a_{42}+a_{11}a_{24}a_{32}a_{43}-a_{11}a_{24}a_{33}a_{42}\\
\hspace{-15pt}&-a_{12}a_{21}a_{33}a_{44}+a_{12}a_{21}a_{34}a_{43}+a_{12}a_{23}a_{31}a_{44}\\
\hspace{-15pt}&-a_{12}a_{23}a_{34}a_{41}-a_{12}a_{24}a_{31}a_{43}+a_{12}a_{24}a_{33}a_{41}\\
\hspace{-15pt}&+a_{13}a_{21}a_{32}a_{44}-a_{13}a_{21}a_{34}a_{42}-a_{13}a_{22}a_{31}a_{44}\\
\hspace{-15pt}&+a_{13}a_{22}a_{34}a_{41}+a_{13}a_{24}a_{31}a_{42}-a_{13}a_{24}a_{32}a_{41}\\
\hspace{-15pt}&-a_{14}a_{21}a_{32}a_{43}+a_{14}a_{21}a_{33}a_{42}+a_{14}a_{22}a_{31}a_{43}\\
\hspace{-15pt}&-a_{14}a_{22}a_{33}a_{41}-a_{14}a_{23}a_{31}a_{42}+a_{14}a_{23}a_{32}a_{41}\\
\end{align}