行列式の転置不変性
正方行列\(A\)に対し、
$$\mathrm{det}(A^T)=\mathrm{det}(A)$$ が成り立つ。
※以下、\(E_1,E_2,\cdots ,E_n\)は単位行列ではなく基本行列である点に注意してください。
証明1
行列\(A\)が基本行列により
$$A=E_k E_{k-1} \cdots E_1$$
と表せたとすると、転置行列は、
$$A^{T} = E_1^{\ \ T} E_2^{\ \ T} \cdots E_k^{\ \ T}$$
となる。\(2\)つ行列の積の行列式はそれぞれの行列の行列式の積と等しいので、\(A\)と\(A^T\)の行列式は、
\begin{align}
\mathrm{det}(A)&=\mathrm{det}(E_k E_{k-1}\cdots E_1) \\
&=\mathrm{det}(E_k) \mathrm{det}(E_{k-1}) \cdots \mathrm{det}(E_1)
\end{align}
\begin{align}
\mathrm{det}(A^{T})&=\mathrm{det}(E_1^{\ \ T} E_2^{\ \ T} \cdots E_k^{\ \ T}) \\
&=\mathrm{det}(E_1^{\ \ T} )\mathrm{det}(E_2^{\ \ T}) \cdots \mathrm{det}(E_k^{\ \ T})\\
\end{align}
\(i=1,2,\cdots,n\)について\(\mathrm{det}(E_i^{\ \ T})=\mathrm{det}(E_i)\)を代入し並べ替え、
$$\mathrm{det}(A^{T})=\mathrm{det}(E_k)\mathrm{det} (E_{k-1})\cdots \mathrm{det}(E_1) $$
したがって、
$$\mathrm{det}(A^{T})=\mathrm{det}(A)$$
が成り立つ。
∎
補足
行列\(E_1\)、\(E_2\)の積の転置行列とそれぞれの転置行列の積は以下のように表されます。
$$\left(E_2 E_1\right)^T = E_1^{\ \ T}E_2^{\ \ T}$$
これに\(E_3\)を追加すると、
\begin{align}
\left(E_3E_2 E_1\right)^T &= \left\{E_3 (E_2 E_1)\right\}^T\\
&=(E_2 E_1)^T E_3^{\ \ T}\\
&=E_1^{\ \ T} E_2^{\ \ T} E_3^{\ \ T}
\end{align}
同様に、\(E_k\)までを追加すると、
$$(E_k E_{k-1}\cdots E_1)^T = E_1^{\ \ T} E_2^{\ \ T} \cdots E_k^{\ \ T}$$
となります。
証明2
数学的帰納法を用いて証明する。
\(2\times2\)の場合、行列式は、
\begin{align}
\mathrm{det}(A)&=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}\\
\mathrm{det}(A^T)&=a_{11}a_{22}-a_{21}a_{12}=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}
\end{align}
より\(\mathrm{det}(A)=\mathrm{det}(A^T)\)が成り立つ。
次に\(n \times n\)の行列について比較する。
\(A\)から第\(i\)行と第\(j\)列を除いた行列を\(A_{ij}\)とする。
\(A\)を第\(1\)列に沿って余因子展開すると、
$$\mathrm{det}(A)=a_{11}\mathrm{det}(A_{11}) – a_{21}\mathrm{det}(A_{21})+\cdots+(-1)^{n+1}a_{n1}\mathrm{det}(A_{n1})$$
\(A^T\)を第\(1\)行に沿って余因子展開すると、
$$\mathrm{det}(A^T)=a_{11}\mathrm{det}((A^T)_{11})-a_{21}\mathrm{det}((A^T)_{12})+\cdots+(-1)^{n+1}a_{n1}\mathrm{det}((A^{T})_{1n})$$
\(k=1,2,\cdots n\)について
$$\mathrm{det}((A^{T})_{1k}) = \mathrm{det}(A_{k1})$$
であることがいえるのであれば命題が成立する。
\(A_{k1}\)は\(n-1 \times n-1\)の行列であり、\((A^T)_{1k}\)は\(A_{k1}\)の転置行列である。\(n=2\)において転置行列の行列式は等しいことがわかっているので数学的帰納法により\(n \times n\)の行列においても上の式が成り立つ。したがって\(\mathrm{det}(A^T)=\mathrm{det}(A)\)となる。
∎
補足
\(n \times n\)の行列について考えます。
\(A\)の第\(1\)列と、
\(A^T\)の第\(1\)行に沿って余因子展開を行うと、
以下の式になります。
$$\mathrm{det}(A)=a_{11}\mathrm{det}(A_{11}) – a_{21}\underline{\mathrm{det}(A_{21})}+\cdots+(-1)^{n+1}a_{n1}\mathrm{det}(A_{n1})$$
$$\mathrm{det}(A^T)=a_{11}\mathrm{det}((A^T)_{11})-a_{21}\underline{\mathrm{det}((A^T)_{12})}+\cdots+(-1)^{n+1}a_{n1}\mathrm{det}((A^{T})_{1n})$$
両式が等しいことを確認するため、下線の部分が等しいこと、つまり\(\mathrm{det}(A_{21})=\mathrm{det}((A^T)_{12})\)であることを確認します。これが分かれば他の項も同様であり両式が等しいといえます。
\(A_{21}\)は、
\((A^T)_{12}\)は、
の緑色の部分なので、
両者を比較すると\((A^T)_{12}\)は\(A_{21}\)の転置行列、つまり
$$(A^T)_{12}=(A_{21})^T$$
の関係にあります。
\(A_{21}\)は\(n-1 \times n-1\)の行列です。したがって\(n-1 \times n-1\)の行列において転置行列の行列式が等しいことがいえるのであれば、\(n \times n\)の行列において上記の下線部が等しいこと示すことができます。
既に\(2 \times 2\)の行列において転置行列の行列式が等しいことを確認しました。したがって\(n=3\)の場合、上記下線部が等しいといえます。他の項も同様なので\(n=3\)においては\(\mathrm{det}(A^T)=\mathrm{det}(A)\)であることがわかります。
この関係を利用して\(n=4\)についても同様のことがいえます。以上より\(n\)がどのような値であっても成立するといえます。