「ガレージのパラドックス」は矛盾しているようにみえますが、「双子のパラドックス」同様相対性理論によって説明が可能です。どうやって説明が可能なのか、考えてみましょう。
1 ガレージのパラドックスとは
ガレージと車があります。静止状態ではガレージの奥行と車の全長は同じです。ガレージは図の右側が入口、左側が奥です。普段はシャッターが下りておらず車は通り抜けることができます。
車がガレージに入庫するところを考えます。
ガレージのそばで静止している人(以後「ガレージ側の観測者」と表現します)から見ると、車は収縮するのでガレージに収まります。
次に運転者から見た場合を考えます。
この場合はガレージが収縮するので車はガレージからはみ出すはずです。
ガレージ側の観測者から見た場合は車は収まるのに、運転者から見るとはみ出ます。そうであれば見る立場によって両者の関係が異なるので、これがパラドックスとよばれます。
2 パラドックスの解消
2.1 ガレージ側の観測者から見た場合と運転者から見た場合の違い
車がガレージに収まっているところをイメージしやすくするために、車の前端がガレージの奥に到達した瞬間と車の後端がガレージの入口に到達した瞬間のみ、それぞれのシャッターが下りることにしましょう。
まず、比較のために車が非常にゆっくりと移動してガレージに入った場合を考えます。
この場合、ガレージ側の観測者から見ても運転者から見てもほぼ同時にシャッターが下ります。
次に、高速に移動した場合を考えます。
まずガレージ側の観測者から見た場合です。下側はミンコフスキー図です。
車が収縮するのでガレージに収まることは前章の考察の通りです。シャッターが下りるタイミングが入口と奥では異なる点が気になるかもしれませんが、とりあえずは先に進みましょう。
次に運転者から見た場合です。
ガレージが収縮するので、車の前端がガレージの奥に到達した時点でシャッターが車の後端にぶつかりそうです。しかしこの時点では入口のシャッターは下りません。車の後端が入口に到達した時点でようやく下ります。
したがって、運転者から見ても車はガレージに収まるので矛盾はありません。
2.2 なぜ運転者から見た場合に車はガレージに収まる?
前章でパラドックスとしたのは、入口と奥のシャッターが同時に下りることが前提であったからでした。しかし、前節のようにシャッターは同時には下りません。
これはどのような現象でしょう。
同時性の相対性ですね。
ある慣性系から他の慣性系を見ると、その慣性系の時間は位置によって異なります。原点から進行方向に離れるほど時間は遅れ、進行方向とは逆方向に離れるほど時間は進みます。
下の図は運転者から見た場合です。ミンコフスキー図の点線の長さの違いが、ガレージ側における車の前端と後端の、時間の違いです。
長いほうがより時間が進んでいます。つまり運転者からはガレージの奥の時間は進み、入口の時間は遅れて見えます。
運転者から見ると、ガレージの入口の時間は遅れて見えるので、車の前端がガレージの奥に到達しても入口付近はまだシャッターが下りる時間に達していないのです。
詳細は省略しますが、この後に車の後端がちょうど入口に到達したところでシャッターが下ります。
ガレージの観測者から見た場合は時間の前後関係が反対になります。車の前側の時間は遅れて見えるので、後端がガレージの入口に到達しても奥のシャッターはまだ下りていません。この後車の前端が奥に達したところでシャッターが下ります。
つまり、シャッターが下りるタイミングと車の位置の関係は、ガレージ側の観測者から見た場合と運転者から見た場合では同じなのです。
3 まとめ
・静止状態で測ると奥行と全長が同じガレージと車があります。車が移動しながらガレージの中に入ります。ガレージ側の観測者から見ると車が収縮するのでガレージの中に車が収まるはずです。運転者からはガレージが収縮するので車がはみ出るように見えるはずです。そうであれば観測者によってガレージと車の位置関係が異なることになります。これがガレージのパラドックスです。
・「同時性の相対性」によってこれがパラドックスでないことが説明できます。運転者から見るとガレージの奥の時間が進み、入口の時間が遅れて見えます。ガレージ側の観測者からは車の前端の時間が遅れ、後端の時間は進んで見えます。この違いにより、どちらから見てもガレージと車の位置関係が異ならないことを説明できます。