ミッシングファンダメンタル

投稿者: | 2020年5月6日

和音を構成するそれぞれの音は高いのに、和音になると低い音になると感じたことはありませんか。それはミッシング・ファンダメンタルという現象かもしれません。複数の音が合成されることによって、存在しないはずの低音が聞こえる現象です。

(1)音は正弦波の合成と考えることができる

まず、音を音は空気の振動です。横波ではなく縦波(疎密波)ですが、送信側や受信側で波の状態は横軸を時間、縦軸を密度で表します。図は200Hzと600Hzの正弦波です。





200Hzの正弦波と600Hzの正弦波を重ねてみます。

このような波形になります。



さらに900Hzを重ねるとこのようになります。



200Hzの3倍の周波数を3000Hzまで重ね合わせると図のようになります。このようにして、高周波の正弦波を重ねていくと、矩形波(2種類のレベルが繰り返される波形)を作り出すことができます。



矩形波だけではありません。どのような形状の波形であっても、それが繰り返される場合は、複数の整数倍の正弦波によって合成できます。この例では奇数倍だけでしたが、偶数倍の正弦波が必要になる場合もあります。

なぜ三角波などではなく正弦波なのかについては、省略します。

(2)ミッシング・ファンダメンタルとは

200Hz・400Hz・600Hz・800Hz・1000Hz・1200Hz・1400Hz・1600Hzの正弦波を合成したとします。

下の「+」を展開すると各周波数の波形と再生コントロールが表示されます。

200Hz-1800Hzの正弦波
※環境によっては、200Hzは、やや音量が小さいかもしれません。
(a)200Hz


(b)400Hz

(c)600Hz

(d)800Hz

(e)1000Hz

(f)1200Hz

(g)1400Hz

(h)1600Hz

合成するとこのような波形になります。音の再生をしてみてください。



次に600Hz・800Hz・1000Hz・1200Hz・1400Hz・1600Hzの正弦波を合成したとします。つまり、先の音より200Hzと400Hzを削除したものです。



いかがでしょう。違いはありますが、思ったほどではないのではありませんか。後者の最も低い周波数の成分は600Hzです。しかし明らかに600Hzより低い音が存在します。

なぜこうなるのかを考えてみましょう。下の図は、200Hz-1600Hzの各成分を重ね合わせたものです。赤の縦線のところに注目してください。200Hzの周期終わりに合わせて他の正弦波も一斉に周期が終わっています。つまり、合成すると200Hzの周期になるはずです、。



この図は600Hz-1600Hzの場合です。赤の縦線は200Hzの周期の終わりのところです。この図では200Hzと400Hzはありませんが、やはり200Hzの周期終わりのところが他の成分の周期終わりと一致しています。したがって、これらを合成すれば、やはり200Hz周期となるはずです。



複雑なので、少し単純化してみましょう。1000kHz以上の成分を削除します。これは200Hz・400Hz・600Hz・800Hzの正弦波を重ね合わせたものです。



これは600Hzと800Hzのみです。



600Hz・800Hzの周期の終わりに必ず他の成分の周期と一致するわけではありません。図の赤のところをよくご覧ください。緑(600Hz)は3周期、青(800Hz)は4周期です。

赤の時間は 3 / 600Hz = 4 / 800Hz = 5ms です。周波数にすると200Hzです。各成分の周期の整数倍が一致した場合です。緑・青の周期と赤の時間の関係は何でしょう。最小公倍数ですね。周波数でいえば、各成分の最大公約数が現れます。

これがミッシング・ファンダメンタルです。合成する前のいずれの音より、合成した後の音のほうが低くなることがあります。その条件は、各周波数の最大公約数がそれらの周波数より低い場合です。

この例の場合、200Hz・400Hz・600Hz・・・であれば最小公倍数は200Hzなのでミッシング・ファンダメンタルにはなりません。600Hz・800Hz・1000Hz・・・であれば最小公倍数は200Hzで、600Hzより低いのでミッシング・ファンダメンタルの条件に合致します。

イヤホンから低音だけがやたら漏れるような場合、偶然ミッシング・ファンダメンタルが起きているのかもしれません。