渋滞の原因として思いつくものには何がありますか。一般道であれば交差点での待ち時間、合流による交通量の増加、工事・事故による車線数減少・交互通行などでしょうか。有料道路や高速道路ではインターチェンジやジャンクションでの合流があるし、料金所もあります。
いずれも前方での待ち、交通量/車線数の増加が原因です。ただし、有料道路や交通道路で前方の合流も料金所も原因となっていないのに渋滞することがあります。どのような場所で渋滞が起きやすいのか、なぜそうなるのか、を考えてみましょう。
(1)どのような場所で渋滞が発生する?
まず、どのような場所で渋滞が発生するのでしょう。
渋滞の大半はサグ部で起きています。サグ部とは下り坂から上り坂に変わるところです。sagとは「たるみ」、「たるむ」などの意味があります。上り坂で減速することで渋滞が発生します。サグ部ではありませんが、トンネルに入るところでも同じように減速によって渋滞が発生します。
実際にこれらの場所で渋滞を経験している人もいるかと思います。渋滞の情報でもよく耳にする場所にもこのようなところが含まれているのではないでしょうか。
(2)なぜサグ部で渋滞が発生する?
ではなぜサグ部で渋滞が発生するのでしょう。
ある車がサグ部で減速すると後続の車は車間距離を確保するためにブレーキを踏みます。さらに後続の車はこのブレーキライトを見てブレーキを踏みます。このように連鎖反応が起きることが渋滞の原因といわれています。
しかし、車間距離を空けるためであれば先行車のテールライトが点灯しなくても後続車はブレーキを踏むのではないでしょうか。
確かにドライバーはブレーキライトを見なくても速度に応じて車間距離を変えるでしょう。しかし先行車のブレーキライトが点灯することにより、後続車は過敏に反応するかもしれません。その結果、前方のブレーキ操作が増幅されて後方に伝播することが指摘されています。
(3)なぜ上り坂にさしかかってからもすぐには渋滞が解消しない?
前項のように、ブレーキライトによる渋滞の悪化は後方へと伝播します。では渋滞の原因を過ぎたらすぐに渋滞は解消されるでしょうか。
少し余談です。これは私が運転できるようになってからのことです。高速道路を運転中でした。トンネルにさしかかる前のところで渋滞になりました。チェーン規制のためです。当時、雪が降っていました。トンネルのないところではチェーン(または冬タイヤ)を使用するよう規制されていました。しかしトンネルの中ではチェーンを使用できません。入口手前で職員の方がタイヤとチェーンをチェックしていたのです(前述の、入口での安全確保のための減速は関係ありません)。そのために通常30分ぐらいのところを12時間ぐらいかかったと思います。
ようやくトンネルの中に入りました。さあ、これで渋滞を過ぎたと思いましたがそうではありませんでした。トンネルの中でさらに数十分の渋滞がありました。完全に渋滞がなくなったのはその後です。助手席の友人がぽつりと「なぜチェーンのチェックを過ぎたのにまだ渋滞があるんだ」と言いました。なぜでしょう。
これは私でも答えられました。すべての車が車間距離を確保するからです。渋滞の間、車間距離はあまりとりません。しかし発進するためにはこれより車間距離が必要です。車間距離を確保するまで後続の車は発信できません。さらに速度を上げる過程でも少しずつ車間距離を大きくしていくはずです。
この車間距離確保のための時間が累積しトンネルの中でのさらなる渋滞となっていたのです。
つまり、渋滞の原因を通り過ぎてもすぐには渋滞が解消しないことがあります。
(4)シミュレーション
ではシミュレーションをしましょう。
シミュレーションの方針・前提条件は以下です。
・合流、分岐はない。
・速度と車間距離には決まった関係がある。ただし、速度の上限が設定されておりこれを超えることはない。
・ある地点より先(上り坂を想定)で速度の上限が半分に変わる。
・加速度の上限はない(速度は車間距離と上限によってのみ決まる)。
・車間距離が十分であるとき、それぞれの車は一定の速度で走行する。
・車間距離がある値より小さくなると速度を変える。このとき、速度は車間距離に比例する。
・開始地点(下図の左端)には一定の間隔で車が到着する。
・初期状態では先行車がブレーキを踏むと後続車もブレーキを踏む(「ブレーキ反応モード」とする)。後続車がブレーキを踏むタイミングは、先行車のブレーキライト点灯より少し後。一定時間後にブレーキを離す。
・先行車のブレーキライトに反応してブレーキを踏んだ場合は減速の度合いが高くなる(加速度がより小さくなる)。
・ボタン操作(後述)により先行車のブレーキライトを無視する状態に変わる(「ブレーキ無視モード」とする)。この場合は先行車との車間距離のみによって速度が決まる。ブレーキに反応する場合と無視する場合での違いを比較するためのモード。
操作・図の見方は以下です。
・「開/止」を一回押すと開始しもう一度押すと一時停止する。
・「ブレーキ」ボタンを押すごとに「ブレーキ反応モード」と、「ブレーキ無視モード」に変わる。初期状態は前者。
・図の点線より左(区間Aとする)に比べ右(区間Bとする)では速度の上限が半分になる。
・図の一番上の横線が道路。小さな丸は車。見分けやすいよう、ランダムに色を変えている。
・ただし、丸が赤い場合はブレーキを踏んでいることを示す。「ブレーキ反応モード」では車間距離確保のために減速する場合、先行車のブレーキに反応する場合のいずれにても赤く表示する。「ブレーキ無視モード」では車間距離確保の減速時のみ。
・グラフは上から順に縦軸が車間距離(d)、速度(v)、単位時間あたりの通過する台数(v)。
横軸はすべて開始地点からの距離(x)。上の道路の図の位置に合わせてある。
車間距離などはその地点を通った車の値の平均。
・グラフとの関係をわかりやすくするため(グラフの横軸と合わせるため)道路は平たんにした。
ただし、前述のように速度上限が変わることによりそれぞれの車は減速する。
(5)シミュレーションの考察
・どちらのモードでも渋滞が発生しています。しかし「ブレーキ反応モード」のほうが渋滞が激しくなっています。これは先行車のブレーキライトによって車間距離をより大きくするためです。
・「ブレーキ反応モード」の場合、後方の車がブレーキを踏むタイミングは一定ではありません。ブレーキを踏む車が多くなったり少なくなったりします。この設定でははっきり確認できませんが、疎密波のように疎なところと密なところができて後方へ伝播する場合があります。
このように変動するのは、先行車のブレーキライトに反応した場合、強くブレーキを踏まれ、さらに一定の時間でブレーキを離す(または緩める)からです。先行車のブレーキライトが点灯すると「もしかしたら急ブレーキかもしれない」と思いブレーキを強く踏みます。しかし時間が経てばどの程度の減速であったかは把握でき、ブレーキを離すか緩めるはずです。
前方の車の減速によって密な場所が生じた後、瞬間的な強いブレーキの連鎖によってかえって車間距離が大きくなります。
・上り坂に入った時点で渋滞が最もひどくなっています。これは減速するためです。そこから進むにつれて少しずつ回復していきます。急に渋滞が解消されないのは前述(3)の通り、それぞれの車が車間距離を確保しようとするからです。
(6)まとめ
・減速することによってブレーキを踏むと、これを見た後続の車がブレーキを踏み、後方へ波及していきます。単に減速のタイミングを早めるだけではなく必要以上に車間距離をとることにより渋滞を発生させるといわれています。
・渋滞の原因が過ぎた後もすぐには渋滞がなくならないことがあります。これは速度を上げるために車間距離が必要だからです。前方の車が車間距離を空けるまでの時間が必要な状態です。