線形結合
ベクトル\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\cdots \boldsymbol{v}_n\)とスカラー\(c_1,c_2,\cdots,c_n\)にて以下のように表したとき、これを線形結合(linear combination)または\(1\)次結合とよぶ。
$$c_1 \boldsymbol{v}_1 + c_2 \boldsymbol{v}_2 + \cdots c_n \boldsymbol{v}_n=\boldsymbol{0}$$
線形独立・線形従属
定義2
ベクトル\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\cdots \boldsymbol{v}_n\)と係数\(c_1,c_2,\cdots,c_n\)が以下の関係で表され、
$$c_1 \boldsymbol{v}_1 + c_2 \boldsymbol{v}_2 + \cdots c_n \boldsymbol{v}_n=\boldsymbol{0}\tag{1}$$
係数が以下であるとき、\(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\cdots ,\boldsymbol{v}_n\)は線形独立(linearlly independent)または\(1\)次独立であるという。
$$c_1 = c_2 = \cdots c_n =0$$
また、係数のいずれかが\(0\)以外であるとき、これらのベクトルは線形従属(linearlly dependent)または\(1\)次従属であるという。
・線形従属の場合、\((1)\)の係数のうち少なくとも\(1\)つが\(0\)以外です。たとえば\(c_1\neq 0\)であったとすると式を以下のように変形できます。
$$\boldsymbol{v}_1 =-\frac{ c_2}{c_1} \boldsymbol{v}_2 -\frac{ c_3}{c_1} \boldsymbol{v}_3 – \cdots -\frac{ c_n}{c_1} \boldsymbol{v}_n=\boldsymbol{0}$$
つまり線形従属の場合、係数が\(0\)でないベクトルを他のベクトルの線形結合で表すことができます。
線形独立の場合はいずれの係数も\(0\)であるので線形結合で表すことができません。この違いでも線形独立/線形従属を判定できます。
・ベクトルの中で\(1\)つでも\(\boldsymbol{0}\)があった場合、それらは線形従属です。そのベクトルの係数がどのような値であっても定義の式が成り立つからです。
・線形結合・線形従属はベクトルの集合について示すものであって、個々のベクトルの性質を表すものではありません。また、例えばある\(3\)個のベクトルは線形従属であるが、その中から抽出した\(2\)個のベクトルは線形独立ということがあるので注意ください(後述例4)。
線形独立の例
以下の\(2\)つの例は係数が\(0\)でないと\((1)\)が成立しません。
例1
$$
\boldsymbol{v}_1=\begin{pmatrix}
1\\
2\\
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
2\\
1\\
\end{pmatrix}
$$
例2
$$
\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
1\\
2\\
3
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
3\\
3\\
4
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_3=
\begin{pmatrix}
3\\
4\\
5
\end{pmatrix}
$$
線形従属の例
例3
\(c_1=2,\ c_2=-1\)で\( (1) \)が成立します。
$$
\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
1\\
2\\
\end{pmatrix}
,
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
2\\
4\\
\end{pmatrix}
$$
例4
\(c_1=2,\ c_2=1,\ c_3=-1\)で\( (1) \)が成立します。
$$
\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
1\\
2\\
3
\end{pmatrix}
,
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
3\\
3\\
4
\end{pmatrix}
,
\boldsymbol{v}_3=
\begin{pmatrix}
5\\
7\\
10
\end{pmatrix}
$$
参考まで、この中から\(2\)個のベクトルを選ぶといずれの組み合わせでも線形独立です。
ベクトルが張る空間との関係
幾何学的な解釈
以下、互いに線形結合で表すことができるかどうかによって線形結合/線形従属を判別します。
平面上に下図の\(2\)個のベクトルがあったとします。これらは平行でないのでどのような係数を掛けてももう一方のベクトルと同一にはなりません。つまり線形結合によって表すことができません。したがって線形独立です。
次のように\(2\)個のベクトルが平行であった場合、係数によってはもう一方と同一のベクトルになります。したがって線形従属です。
ベクトルが\(3\)個あり互いに平行ではなかった場合はどうでしょう。ただしこれらは同一平面上にあるものとします。
この場合は定数倍した\(2\)個のベクトルの和によって他の\(1\)個を表すことができるので線形従属です。
\(3\)個のベクトルが同一平面にない場合は線形独立です。
以上をまとめると、
・\(2\)個のベクトルが平行でなければ線形独立、平行であれば線形従属
・\(3\)個のベクトルが同一平面上になければ線形独立、同一平面上にあれば線形従属
ベクトルが張る空間
それぞれのベクトルの係数が取りうる全ての組み合わせによる線形結合のベクトルの集合は空間になります。このことをベクトルが空間を張るといいます。
ベクトルが張る空間の次元はベクトルの数と、線形独立か線形従属かによって決まります。ベクトルが互いになす角度が変わっても数と線形独立/線形従属が変わらないのであれば張る空間は同じです。
\(n\)次元の実数の空間は\(\mathbb{R}^n\)または\(\mathrm{R^n}\)と表します。
したがって、\(n\)個の線形独立なベクトルが張る空間は\(\mathbb{R}^n\)です。
連立一次方程式との関係
中学校で習った数学を思い出してください。
以下のような連立一次方程式の解は、
\begin{align}
4x-3y&=-1\\
2x-3y&=-5
\end{align}
グラフに表すと両式が示す直線の交点の座標でした。
ところが次のような方程式の場合、
\begin{align}
4x-3y&=-1\\
8x-6y&=-2
\end{align}
未知数を消去しようとすると式が\(1\)つになってしまい解が一意に決まりません。両式が示す直線が同一であるからでした。
これが線形独立・線形従属の関係とほぼ同じです。
本ページ冒頭の\((1)\)を連立一次方程式と考えてそれぞれがどのようなグラフになるか考えましょう。
ベクトルが\(2\)個の場合
線形独立の場合
以下のベクトルについて考えます。
$$\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
4\\
2
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
-3\\
-3
\end{pmatrix}
$$
定義に合わせ右辺の定数は\(\boldsymbol{0}\)とします。連立方程式は以下のようになります。
\begin{align}
4c_1-3c_2&=0\\
2c_1-3c_2&=0
\end{align}
\(c_1,c_2,\cdots c_n\)は係数ではなく方程式の未知数とする点に注意してください。
方程式の解は\(c_1=c_2=0\)です。この例に限らずどのようなベクトルであっても線形独立であれば同じ解は得られます。このような解を自明な解とよびます。
線形独立である場合、自明な解以外の解をもたないことがグラフからもわかると思います。
線形従属の場合
ベクトルを以下とします。
$$\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
4\\
8
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
-3\\
-6
\end{pmatrix}
$$
方程式は、
\begin{align}
4c_1-3c_2&=0\\
8c_1-6c_2&=0
\end{align}
解は、
$$y=\frac{3}{4}x$$
あるいは媒介変数\(t\)を用いて、
\begin{align}
x&=4t\\
y&=3t
\end{align}
と表されます。図の線上の座標が全て解です。
つまり線形従属の場合、解は一意に決まりません。
ベクトルが\(3\)個の場合
線形独立の場合
以下のベクトルについて考えます。
$$\boldsymbol{v}_1=
\begin{pmatrix}
8\\
37\\
33
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_2=
\begin{pmatrix}
15\\
17\\
100
\end{pmatrix}
,\
\boldsymbol{v}_3=
\begin{pmatrix}
4\\
4\\
1
\end{pmatrix}$$
それぞれを列ベクトルとした行列にします。
\begin{pmatrix}
8&15&4\\
37&17&4\\
33&100&1
\end{pmatrix}
これらより\(3\)つの方程式ができます。それぞれの方程式の解の集合は平面になります。\(1\)つずつ図に追加していきます。
\(1\)番目の式
$$8c_1+15c_2+4c_3=0$$
\(2\)番目の式
$$37c_1+17c_2+4c_3=0$$
赤い線は\(2\)つの平面の交線です。
\(3\)番目の式
$$33c_1+100c_2+c_3=0$$
線形独立の場合、これらが交わるのは原点のみです。
線形従属の場合
ベクトルを以下とします。
\begin{pmatrix}
8&15&4\\
37&17&4\\
33&10&1
\end{pmatrix}
上の\(2\)つの式は線形独立の場合と同じであるとします。
\(3\)つ目の式の平面を追加しても、\(3\)つの平面が交わるのは点ではなく線です。
つまりこの場合は解が直線上に無限に存在することを示しています。